「仕事で成長したいですか?」と言われたら、どう答えるだろうか。

Yesであれば、本稿が役に立つはずである。

Noであれば、この記事を読む必要はまったくない。時間の無駄であるから、ブラウザを閉じたほうが良い。

 

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私見であるが、企業において、最近では特に「成長」に関心をもつ方が増えているように感じる。

「漫然と定年まで過ごす」ことが許されなくなってきている状況が、成長への渇望を生み出しているのかもしれないし、格差の広がりとともに「勝ち組」に入らなければマズい、という焦りもあるかもしれない。

 

だが「成長」について、悩む人はとても多い。

「上司のマネ」をしていても、成長の実感はなかなか得られないし、さりとて「研修」が有効であると信じるに足る証拠もない。

では、何が成長を生み出すのか。

 

この課題についての一つの解が、ペンシルバニア大学の心理学教授、アンジェラ・ダックワース氏の「Grit」である。

 

氏によれば、Grit(グリット)=やり抜く力 こそ、一流に成長するためのカギであり、「Grit」を身につけるには「自信」と「支援」が必要と説く。

「やり抜く力」の鉄人たちは、誰もがみな賢明な父親や母親に育てられたわけではないが、私がインタビューで話を聞いた人たちは、必ず人生のなかで「誰か」に出会っていた。

絶妙のタイミングと適切な方法で彼らを導き、目標を高く持ってがんばるようように励ましてくれた人に。そしてなによりも必要だった「自信」と「支援」を与えてくれた人に。

ある困難を乗り越えたことにより、自信が生まれれば、もっと大変なことにも挑戦できるようになり、更に高みを目指すことができるようになる。

これが、「成長」を生み出すサイクルである。

当然、企業においても、成長の鍵は、支援を与える「上司」と、自信を身につけるべき「部下」の両者にある。

 

余談だが、ここで言う「自信」は、口だけで実力が伴わない人物に特有の特徴である、「万能感」や「有能感」とは異なる。

むしろ自信と万能感は、全く相容れない。

 

実際、真の自信家は決して満足せず、自分を有能であると決めつけない。「上には上がいるのだから、もっと高みを目指さなければならない」と知っている。

ダックワース氏は「Grit」を保有する人物の「自信」について、こう述べている。

そもそも彼らは、自分の目指している大きな目標に、簡単にたどり着けるとは思っていなかった。

いつまでたっても、「自分などまだまだだ」と思っていた。まさに自己満足とは正反対だった。しかしそのじつ、彼らは満足しない自分に満足していた。どの人も、自分にとってもっとも重要で最大の興味のあることをひたすら探究していた。

そして、そんな探究の道のりに──その暁に待ち受けているものと同じくらい──大きな満足をおぼえていた。つまらないことや、イライラすることや、つらいことがあっても、あきらめようとは夢にも思わなかった。彼らは変わらぬ情熱を持ち続けていた。

要するに、どんな分野であれ、大きな成功を収めた人たちには断固たる強い決意があり、それがふたつの形となって表れていた。

第一に、このような模範となる人たちは、並外れて粘り強く、努力家だった。

第二に、自分がなにを求めているのかをよく理解していた。決意だけでなく、方向性も定まっていたということだ。

このように、みごとに結果を出した人たちの特徴は、「情熱」と「粘り強さ」をあわせ持っていることだった。つまり、「グリット」(やり抜く力)が強かったのだ。

自信とは、自分の限界を知り、かつそれを押し広げようとしている時に、身につくものである。

 

では、企業内において、具体的にはどのような行動が「Grit」につながるだろうか。

その一つの処方箋が、上司が「困難な試みを与えること」と、部下が新しい試みを断らず「とにかく、やってみます」と、言うことである。

この2つが、「限界」に挑戦する状況を必然的に生み出す。

 

例えば、カリフォルニアのGoogle本社などを手がける、世界的建築家の、ビャルケ・イングレス氏は、

”「イエス」ということで、可能性が広がる。”を経営の方針としている。

単に一つの条件や要求に対して「イエス」と答えるだけでなく、複数の、しかも対立するような要求に対しても何とかしてすべて「イエス」と答えようということ。

「イエスと言うことでより可能性が広がる」(Yes is more.)ということです。

まさに体をねじってアクロバットをするように、デザインをよじりながらあえて矛盾するような要求を包含してそれらを実現していく。そうすると、スタンダードな既存の解決方法というものはまったく役に立たなくなる。

すべての条件や要求には応えられないからです。

そこからまったく新しいデザインというものが半ば強制的に生まれてくることになります。すべてに対して「イエス」と言うことで、結果的にもっとたくさんのことをしなければならなくなるからです。

彼は「問題が難しければ難しいほど、その解決策は予想を超えたものになる」と述べ、とにかく仕事には「イエス」ということを推奨している。

 

この発言の本質はイングレス氏が、「矛盾した要求を必ずイノベイティブに解決できる」と信じている点にある。

氏は仕事の中に、「Grit」を身につけ、それを強化する術を織り込んでいるのである。

 

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上司が「辛かった体験」を部下にドヤ顔で語るのは、決して自慢したいから、というだけではない。

彼らは経験的に、「最も成長を生み出したと思われる状況」が、どのような状況だったのかを知っている。

 

だから、

「毎日遅くまで働いたから、成長した」

「お客さんに厳しいことを言われながら、耐え抜いたから、力がついた」

「短納期に応えることで、レベルが上った」

と言う話は、必ずしも根拠が無いわけではない。

 

実際、企業で働く労働者の成長にとって最も必要なのは、

「困難な要求をクリアした」という経験である。

トヨタが、品質とコストを両立させるように。ユニクロが高機能と低価格を両立させるように。粘り強く「できそうにない課題」をクリアした経験をもつ人物は、必ず一流になる。

 

だから、誰であっても、

・上司が部下に「難しい課題」を与え、それが解決されるよう、上司は粘り強く支援する

・部下は「難しい課題」を断らず、果敢に挑戦する

以上の条件をみたすことができれば、そう遠くない未来に、大きな成長の果実を得ることができよう。

 

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