随分と久しぶりに、完全書き下ろしの本を書きました。
タイトルは、「人生がうまくいかないと感じる人のための超アウトプット入門 」。
アウトプットすることの意義、そしてその能力の源泉についての話を、読みやすいよう、物語形式にてまとめています。
どうか買ってやっていただけると、とてもありがたく、温かい投げ銭をよろしくお願いします。
アウトプットは「他者からの評価」の部分にキモがある。
さて、この本にちなんだ話題です。
先行き不安な世相を反映してか、世の中には「アウトプットの手法」に関するノウハウが氾濫しています。
ちょっと書店を見渡すだけで、
「アウトプット術で仕事がうまくいく」
「アウトプット力で成功」
「アウトプットスキルで差をつける」
などの、本が驚くほど多数、陳列されているのです。
そして、中身を見ると、書き方、話しかた、表情の作り方、報告の仕方など、「やるべきことと、その方法」が羅列してあります。
こうした本は、一般的には「スキルを磨いてアウトプットしよう」という主張を、共通して根底に持っています。
キーワードは「スキルアップ」「自分磨き」「習い事」。
つまり「自分が成長すれば、アウトプット力が高まる」との世界観です。
このような世界観に基づいて、「習い事市場」は大きくなりました。
しかし、本当にこういったことで、世の中の「高アウトプット能力者」の仲間入りができるのでしょうか?
残念ながら、多くの企業、経営者などを観察しても、「習い事」や「スキルアップ」、あるいは「自分磨き」で卓越した業績を生み出した人はいません。
言い換えれば、自分だけを見ていても、アウトプット力は高まらない。
もちろん「スキル」はアウトプットには必要です。
しかし、それはアウトプット能力の本質ではない。
なぜでしょうか?
それは「アウトプット」が、他者の評価なしにはありえないものだからです。
そもそも「アウトプットと、創作活動は、イコールではない」という認識はとても重要です。
例えば、絵をかいたり、音楽を作ったり、文章を書いたりすることは「創作活動」ではありますが、「アウトプット」ではない。
なぜなら、他者評価を伴っていないからです。
その場合、彼らのやったことは「趣味」、あるいは「自己満足」と呼ぶべきものです。
これは特に「仕事」や「勝負事」では顕著です。
私が最初に、「アウトプットに、他者の評価は欠かせない」と教えてもらったのは、就職してすぐのことでした。
というのも、仕事においては、絵だろうと、ドキュメントだろうと、ソフトウェアだろうと、何かしらの仕事の「成果品」は他者の「評価」を必ずを受けていたからです。
上長の承認。
次工程でのテスト。
顧客のレビュー。
独力で仕事をしているように見える、職人たちであっても、それは例外ではありませんでした。
自分一人で完結するものは何一つなく、他者の評価を受け、それが適格か、不適格か判断されるのです。
「マネジメント」の始祖であるピーター・ドラッカーは「他のものが彼の貢献を利用してくれるときのみ、成果を上げることができる」と述べていますが、この場合の「貢献」が、「アウトプット」とほぼ同義です。
このように言うと、「芸術などの自己表現には、他者評価など無用」という方がいるかも知れません。
しかし、芸術家も社会の一員であり、生活がある以上、すべて「評価」と無縁ではいられません。
また、無縁どころか、現代で最も成功した芸術家の一人であるパブロ・ピカソはマーケティングの天才でした。
ピカソの成功の秘密は、十九世紀後半に急成長した画商というビジネスの可能性を正確に見抜き、自分の作品の市場評価の確立と向上にあたって、彼らが果たす役割というものをとことん知り抜いていた点にありました。
ピカソにとっては、「画商の評価」こそ重要であり、芸術家として功をなすときの根幹だったのです。
特に、「芸術」「音楽」といった、明確な判断の基準がない場合には、成功を決めるのは、間違いなく「他者」です。
勝ったもの、みんなが優れていると「思っているもの」が、実際、「優れたもの」になる。
(参考記事:ネットワーク科学がデータをもとに突き止めた、「成功」の正体。)
したがって、「高アウトプット能力保持者」は、一般にイメージされる「生産性の高い人」の姿とは、異なります。
彼らは、実は「生み出す能力」が高いのではなく、「評価に基づいて、修正する能力」が高いのです。
「高アウトプット能力保持者」の世界観
そんなの誰でもできるじゃないか、と思う人もいるかもしれませんが、実は「生み出す」より「評価される」「修正する」のほうが、精神的ハードルは高い。
基本的に、他者にとやかく言われるのは、不愉快ですから。
昔、あるシステム会社に、仕事で訪れていた時のことです。
エンジニアの能力開発についてのディスカッションがあり、そのエンジニアの部門のヘッドが言っていた言葉が、非常に含蓄のあるものでした。
「どんなエンジニアが伸びますか?」と聞いたところ、彼はこう言ったのです。
「積極的に、自分のコードを他者に説明し、批判にさらす人ほど、伸びる」。
彼はまた、言いました。
「評価を避けて通る、隠蔽体質のエンジニアは、逆にトラブルメーカーになる。」
彼は腕の良い、卓越したエンジニアではありましたが、辛らつなマネジャーでもあったため
「彼のレビューを受けたくないよな……」と思う人も多かったのだと思います。
しかし、彼のレビューでの指摘を、絶賛する人も多かったのは事実です。
社内には何人も、「彼のおかげで一人前になったようなものです」という人がいました。
要するに、高アウトプット能力者は、アウトプットの改善は「ネガティブなフィードバック」が必要であることを受け入れている。
したがって、「自分のやったことの何が悪いのか」についての情報について貪欲です。
合格しない。
売れない。
見られない。
読まれない。
勝てない。
満足度が低い。
無視される……
こういった、「ネガティブなフィードバック」はすべて、彼らの糧です。
もちろん「言い方が悪い」とか「アドバイスの仕方がよくない」とか、評価が悪いことを相手のせいにすることは簡単です。
しかし、「高アウトプット能力者」は、それらを驚くほど素直に受け入れます。
国際的に活躍する、日本随一のプロゲーマーの梅原大吾さんは、著書「勝ち続ける意志力 世界一プロ・ゲーマーの「仕事術」」の中で同様のことを述べています。
結果が出なかったとき、どう受け止めるかでその後の歩みは変わってくる。
あのときはたまたま負けただけだったんだと運のせいにするか、このゲームが悪いと責任転嫁するか、相手が強かっただけだと諦めるか、自分も年を取ったと頭を抱えるか。
だが、そのように一時の感情に流されるのではなく、事実を受け止めて分析することが大事なのである。
才能ですべてを凌駕する、なんてのは、漫画の中にしかなく、現実ではアウトプット能力を鍛えるには、常に自分の能力を俯瞰し、訓練を行う必要があります。
成果が上がらない原因を特定せず、「頑張って続けているだけ」で終わっているうちは、「アウトプットしている」とは言えない。
これこそ、「高アウトプット能力保持者」の世界観です。
どうすれば「高アウトプット能力保持者」になれるのか
以上をまとめると以下の2つになります。
1.アウトプットのキモは「創作」部分ではなく「他者からの評価」の部分にある。
2.アウトプット能力の獲得は、「評価を改善するための活動」によって成される
では、どうすれば「高アウトプット能力保持者」になれるのでしょうか。
前述したように、「がむしゃらにこなす」ことは、能力の向上につながりません。
そうではなく、「自分ができないこと」に意図的に取り組むことが、能力向上のカギとなります。
スケート選手を対象とした研究で、一流選手ではない人たちは自分がすでに「できる」ジャンプに多くの時間をつぎ込んでいることがわかった。一方、トップレベルの選手は自分が「できない」ジャンプにより多くの時間を費やしていた。
最近、ふと気づいたことがあります。
Youtuberの多くは決まり文句のように「高評価と、チャンネル登録ボタンをお願いします」といいます。
ところが、少なくない数の「この人の動画は面白いなあ」という人が、「面白くなかった人は、低評価とコメントをお願いします。改善します」と、大真面目に言っているのです。
そして実際に、コンテンツの改善に活かしている。
あるいは、知人に「パン屋さん」でアルバイトを始めた方がいました。
「店主が厳しいので、毎日怒られてます」と笑顔で言うのです。
なんでそんなに嬉しそうなのかと言えば、「最近、パンだねをこねる工程」を任されるようになったからとのこと。
「大人になると、なかなか怒ってもらえないですからね」と、彼女は言います。
それを聞いて、確かに同じような経験をしたな、と。
私も思いました。
(参考:30代後半からは、意図的に「教えてもらう側」に回り続けないと、学びがどんどん下手になる。)
「能力は向上しない」と信じている固定型マインドセットの被験者たちは、回答の間違いを無視した。
ところが、「能力は向上する」と信じている成長型マインドセットの被験者たちは、間違いへの反応が強く、失敗後の正答率が上昇した。
「失敗への着目度と、学習効果」には、密接な相関がある。
ピーター・ドラッカーは、こうしたことを「フィードバック分析」と呼びました。
実際、ドラッカーは50年もこれを続け、「強みの発見」にもつながったと述べています。
今日では、選択の自由がある。したがって、自らの属する場所がどこであるかを知るために、自らの強みを知ることが不可欠となっている。
強みを知る方法は一つしかない。フィードバック分析である。
何かをすることに決めたならば、何を期待するかをただちに書きとめておく。
九か月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合する。私自身、これを五〇年続けている。そのたびに驚かされている。これを行うならば、誰もが同じように驚かされる。
フィードバック分析を行うためであれば、厳しい評価も、人からの指摘も喜ばしい情報となります。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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◯本を書きました。