私が会社員だった時代、もっともお世話になった方は人を育てるのがうまかった。
彼は事実上の会社のトップであったが、彼に師事した当時の私の先輩や同僚、部下たちを見ているとそれを強く思う。
彼に師事した人々は起業家となったり、他会社の役員・幹部となったりと、かなりの割合で皆活躍している。私自身も「起業」など思いもよらなかったが、その方のお陰で小さいながらも会社を起こし、事業を創り出すことができるようになった。
なぜ上司はこのように人を育成することができたのだろうか。
様々な意見があると思うが、一つの大きな要因は、「彼の、部下から質問された時の対応」にあるのではないかと個人的には思っている。
具体的には、上司に質問をした時はほとんど、下のようなやりとりになった。
私 「すいません、◯◯さん、今お時間を頂いてよろしいですか?」
「いいよ。」
私 「今日訪問した会社ですが、社長、部長全てにインタビューを行い、現在の状況についてコメントを貰いました。」
「うん。」
私 「ただ、インタビューの内容を見ると、社長と部長の間で意見が食い違っています。この場合、どちらの言うことを信じれば良いのでしょうか?」
「なるほど、面白いねー。」
私 「どちらの言うことにも一理あるのですが…私では見当がつかなくて。」
「ちょっと見せてみ」
私 「はい。」
(3分後)
「で、安達さんはどう思ったの?」
私 「うーん、ちょっと見当もつかないですが…どっちの言うことも正しいように見えます。でも、部長はあいまいなことしか言っていないので…」
「結論からどうぞ」
私 「すいません、社長のいうことを信じたほうが良いと思います」
「ほう、なんで?」
私 「部長のほうが自信がなそうで、曖昧な物言いでしたから。」
「なるほど、ちょっと待ってな」(図を書き出す)
私 「何を書いてるんですか?」
「ちょっと整理しよう。少し待って。」
私 「はい。」
(2分後)
「これを見て欲しいんだけど、図にするとこうでしょ。社長はこう言っている。部長はこう言っている。これ見て、なにか気づかない?」
私 「???」
「安達さんなら、5分以内にわかると思うよ。」
私 「…ちょっと待って下さい。」
「いいよ。いくらでも考えて。」
私 「…気づくこと……部長の言っていることがこの前と矛盾している、っていうことですか?」
「うん、それもあるけど矛盾なんてよくある話だよね。もっと重要な事だよ。」
私 「…」
「安達さん、多分答え知ってるよ。これ。」
私 「………うーん……」
「部長は、なんでこう言っていると思う?目の前に誰がいた?」
私 「……あ…もしかして、部下の前で本当のことが言えなかったと…?」
「だから?」
私 「そうだったら…◯◯社の事例と一緒ですね!なるほど!そうか、社長の言うことを信じていれば大丈夫ですね!」
「そうそう、当たり。」
私 「ありがとうございます!わかりました!」
「でも、注意点として、××だけは気をつけてな。」
私 「え?なんでですか?」
「なんでだと思う?」
(以下同文)
この話を人にすると、「コーチングでしょ?」と言われることがあるが、なんというか、「コーチング」ではないような気がする。
上司は我々とのやりとりを、クイズ番組のように楽しみ、複雑な課題を交通整理することで我々の理解を導いてくれた。それはとても忍耐のいる仕事であり、答えをさっさと教えればその10分の1の時間で自分の仕事に戻ることもできたのに、上司はそうしなかった。
ジョージ・ワシントン大学の人材開発学教授である、マイケル・J・マーカートは、こう述べる。
「上司が部下に『君の案を聞かせてくれないか』と言うとき、その上司は『君の案はすばらしい、たぶん自分の案よりいいだろう』と暗に伝えていることになる。その部下は自信を得て、もっと有能になる」
多分、成長のために上司があたえてくれたのは「知識」ではない。彼とのやりとりを通じて得られた、「自分で問題を解決した」という「自信」なのだ。
そう思っている。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】 ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。
(2025/6/2更新)
こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ——
「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。
【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
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