cf41dadd434d943e0797b1dd2b0374c6_s知り合いから、思いもかけない相談を受けた。内容は以下のようなものだ。

上手く女性活用をされている社長さんの事例とかないでしょうか?

この方が言うには、「いわゆるバリキャリ(バリバリのキャリアウーマン)の方々も、出産を機会に、自分の思い描いたキャリアに進めず苦しんでいる」とのこと。他社での女性活用について、良い事例があったら知りたい、というのは自然な感情だろう。

 

しかし、残念ながら私は「女性の活用」について語っていた経営者を知らない。と言うより、「女性だけをターゲットとした施策を実行する経営者」という存在を知らないのだ。

その代わり、「男も女も、仕事ができるかどうかだけが重要で、性別は関係無いですよ」という経営者はたくさん見た。

 

「なにかずれているな」と感じる。

なぜなら、上に述べたように「女性だから」という理由で差別的な扱いをする経営者はごく少数だからだ。私がよく訪問していたような、若い会社であればなおさらである。しかし、相も変わらずアベノミクスでは、「女性の活用」が叫ばれれ、キャリアに悩む女性は減っていないようにも思う。

 

おそらく、私の認識が足りていないのだろう。

そこで、上の相談者の方が勧めてくれた以下の本を読み、少し考察をしてみた次第である。

「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか? (光文社新書)

「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか? (光文社新書)

  • 中野 円佳
  • 光文社
  • 価格¥968(2025/06/07 11:08時点)
  • 発売日2014/09/17
  • 商品ランキング170,184位

 

結論から言うと、この本は統計的に意味のあるデータを集めているわけではないが、「現場のキャリアウーマンと呼ばれる女性の声」はうまく集めていると感じた。そして、結局のところ「キャリアウーマン達の悩み」は、「育児すると、出世できない。プライドを捨てて残るか、それとも辞めるか。」という悩みに集約されるのだと感じる。

 

なぜこのような悩みが生じるのか。

まず大前提として、「子育ては、絶対的に時間がかかる」という事実がある。さらに、「仕事で成果を出すのも、時間がかかる」というのもまた、事実だ。

「有能であれば、定時で成果を出せる」という方もいよう。たしかにそのとおりかもしれない。

しかし、社内の出世は「有能な人間同士」の競争である。以前書いた記事 仕事優先の人物と、プライベート優先の人物、どちらを昇進させるべきか? でも述べたように、能力が同じくらいであれば、「より多くの時間を投入したほうが出世に有利」なのである。

一方で当然のように、「クリエイティブで面白い仕事」は、出世した人に優先的に配分される。だから、「十分な時間を仕事に投入できない女性・男性」は、出世競争から外れ、「あまり面白くない仕事」をやらざるを得ない。プライドが許さない方は、「退職」し、「それでもいい」という方は、プライドを捨てて、あるいは価値観を変えて残る。

だから、キャリアウーマンは、「育児すると、出世できない。プライドを捨てて残るか、それとも辞めるか。」で悩むのである。

 

 

では、これに対して何か解決策はあるのだろうか。

上の著作の筆者は、「マネジメントの意識を変えよ」「育休を取ると出世に不利になるという文化を変えよ」というが、あまり説得力はない。

なぜなら、「面白い仕事」ができる椅子を狙っている人は、社内外にいくらでもいるからだ。マネジメントとしては、「面白い仕事」の椅子を、育児をやっている人間に任せる理由がない。

だから、現在の状態はいわゆるゲーム理論でいうところの「囚人のジレンマ」、すなわち「互いに協調する方が裏切り合うよりもよい結果になることが分かっていても、皆が自身の利益を優先している状況下では、互いに裏切りあってしまう」という状態である。

「出世するためには、抜け駆けする」ことが有利になるのだ。

これを打開するには、従業員同士が協調して、経営者に「育休を取る人間に不利な扱いをするのは許さない」と交渉するしかない。そのためには、政府による介入が必要かもしれない。

 

だが、この政策が支持を得るのは現在のところ難しいだろう。育児に関しては人により考え方がかなり異なる。

政府による人事権への介入はあまり期待できないと考えるほうが現実的だ。

 

では、現実的にはどうすべきか。今は女性の負担が圧倒的に高い「育児の時間」を誰かに負担してもらえるだろうか。

 

夫に育児に参加してもらうか?

会社に育児施設をつくる?

保育園などの公共機関が預かる?

 

しかし、「夫」も厳しい出世競争にさらされている場合は、夫にも頼みづらい。

結局のところ、「会社に育児施設を作ってもらう」や、「保育園の利用時間の延長」が現実的なところなのかもしれない。

 

とどのつまり、「女性を活用できる会社」とは、世間体を気にせず育児に励むことができ、会社が育児の時間負担をある程度認め、お金を出し、保育所をもち、「育児時間をフェアに負担しあおう」という文化のある会社だ。

とすれば、ほとんどの会社にとって、子育てを行う女性を雇うことは、男性を雇うよりも相対的に高コストだ、という結論を出すことは何ら不思議ではない。

 

結局、「女性活用がうまい会社」とは、コスト負担を出来る大企業、もしくは「女性であること」が男性であることにくらべて価値を持つような会社、たとえば化粧品やアパレルなどに落ち着くだろう。

もし育児も、キャリアも、ということであれば、「ママ歓迎」の会社に、さっさと転職したほうが良いのかもしれない。会社に向かって「変わってくれ」と叫ぶよりは、自分の環境を変えるほうが早いだろう。

もちろん、社会や文化が変わるのが一番であることは言うまでもないのだが。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

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