最近訪問した会社の経営者から、ある相談を受けた。それは、昇進に関する話だった。

「安達さん、ちょっと相談に乗って欲しいんですが」
少し深刻そうな面持ちで社長がそこにいた。
「なんでしょう?」
私は、社長の声のトーンで、「何かあったんだな」と思った。
社長は少し間を置いて、こう言った。「安達さんなら、どちらを昇進させるべきか、意見を聞きたいんです。」
「はあ。どちらを昇進させるか…ですか?」
「そうです。」
いつにない社長の真剣な表情に、私は戸惑ったが、ひとまずそれを承諾し、会議室で話を聞くことになった。

 

社長は次のよう話を聞かせてくれた。

 

現在、1人の人間をプロジェクトマネジャー職に昇格させることを考えている。候補者は2名。いずれも新卒として会社に入り、順調に成果をあげている。

能力も、人望も社内的にはそれほど変わらない。

 

「なるほど、同じような能力の方が2名いて、どちらを昇進させようか迷っている、というわけですね。」

「そうなんですが…大きな違いが一つあるんです。一人目は、「会社のためにはプライベートを犠牲にすることはいとわない」という人物です。よく働き、愛社精神が強い人物です。」

「なるほど。もう一人は?」

「もう一人は、「ワークライフバランス」という言葉を好みます。能力的には一人目の人物と変わらないのですが、「子どもが生まれたら、数年は家族のために残業はしたくない」と公言しています。」

「そうですか。」

そして、社長は一息ついてこう言った。

「安達さん、どちらの人間を昇進させるべきでしょう。」

「…」

「お恥ずかしい話ですが、これほど難しい人事は初めてです。個人的にはもちろん、「プライベートを犠牲にすることはいとわない」と言ってもらえるのは非常に嬉しいです。ですが、誰もが彼のように働くことはできません。かと言って、「ワークライフバランス」と皆に主張されると、こんどはプロジェクトに支障をきたしたり、プロジェクトマネジャーが先に1人で帰ってしまって、現場が苦労する、という話になってしまうのも困ります。」\

 

 

私は候補者の2名ともに面識はあったが、いずれの方も仕事ができ、誠実な方たちだ。

社長が言うには、もし「仕事優先」の人物を昇進させたとしたら、社内の文化は、「仕事優先」となるだろう。場合によっては女性社員が結婚すると子育てのために辞めてしまう文化が根づいてしまうかもしれない。

かと言って、「プライベート優先」の人物を昇進させたとしたら、仕事優先の人物が不満を持つ可能性、あるいは部下から見て「責任感のない人物」が優遇されているように見えてしまう可能性がある。

 

私はしばらく社長と話したが、その日は結論が出なかった。

 

後日、私は社長からその後の話をうかがった。

社長はこう言った。

「あれから役員や部長連中にも色々と意見を聞きました。結論としては「仕事優先」の人物を先に昇進させることにしました。現在の会社の状況を考えれば、6時に帰りたい、と言っている人物を先に昇進させることにはリスクがあると判断しました。」

「なるほど。そうですか。もう一人の方には、どのように伝えますか?」

「子どもの面倒を見なくても大丈夫になったら、またプロジェクトマネジャー候補者になってくれ、と言います。」

そして、社長はこう言った。

「安達さん、新聞では政治家や偉い学者さんが、「子育て支援」とか何とか言ってますが、我々中小企業にはそんな恩恵は感じられないですね。早く全員を6時に帰してあげられるようになりたいと思います。」

「そうですね。」

 

 

11月28日の読売新聞にこんな記事があった。

 

東大教授の白波瀬氏へのインタビューだ。

日本の少子化の要因は、女性について言えば子供を産むか仕事を続けるかの2択を迫られてきたこと。男性は労働市場の悪化によりフルタイムの仕事が持てるという構図が崩れた。そのため生涯未婚率が上がった。

対策は結婚する前の若者が自立できるように支援すること、専門学校や大学でキャリア教育を提供すること。2つ目の対策はワークライフバランス。午後6時には罪悪感なく退社できるように慣行を創るべき。3つ目の対策は子ども自身への支援。全ての子供を社会の財産として育てていくという考えを社会全体で共有。

 

一方、どこで読んだか忘れたが、京セラやKDDIの創業者であり、JALを復活させた人物である稲森和夫氏はある一定以上の役職に昇進しようとする人物には、

昇進を受けたら、公人になる。ということは家族よりも会社を優先してほしいということだ。そのことを、家族にも同意をとってほしい。

といった趣旨のことを告げるという。

 

 

働きたい人が、思い切り時間を気にせず働き、ワークライフバランスを重視する人は6時にきっちり帰る。

社会がその両立を成し遂げるのはまだ少し先なのかもしれない。

 

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