しばしば、「お金の多寡で幸福かどうかは決まらない。お金があるから幸福とは限らないし、その逆も真なりである」と言われる。逆に、「そんなことはない、お金がなければ不幸だ」という人も多くいる。なぜこのような見解のちがいが生まれるのだろうか。
この対立の本質は、「幸福」と「快楽」の解釈のちがいにある。
「お金の多寡で幸福は決まらない」という人は、「幸福」≠「快楽」と考える人が多いのに対して、「お金がないと不幸だ」という人は、「幸福」=「快楽」と考える人が多いのではないだろうか。
アメリカの高名な心理学者であるミハイ・チクセントミハイは、「フロー体験、喜びの現象学」という本の中で、
フロ-体験喜びの現象学 (世界思想ゼミナール)
- M. チクセントミハイ,Csikszentmihalyi,Mihaly,浩明, 今村
- 世界思想社教学社
- 価格¥2,670(2025/06/06 07:01時点)
- 発売日1996/08/01
- 商品ランキング11,839位
「快楽(睡眠、休息、食事、娯楽、セックスなど)は生活の質を構成する重要な要素だが、それ自体は幸福をもたらさない。
均衡を取り戻すためのホメオスタティックな経験を生む。ただし自己を成長させることはない。それ自体で意識に新しい秩序を作ることはできない。」
と述べている。お金で買えるのは「快楽」であり、それは単純に「肉体と精神の疲労回復」のためのものである。本当に「幸福」を手に入れようと考えれば、自己を成長させる体験が必要であるということだ。
さらに、チクセントミハイはこのようにも分析する。
不幸な幼少時代を送った子供は、「快楽」を十分体験できなかったが故、成人した後、複雑な楽しさを求める代わりに、生活からできるだけ多くの快楽を得ることに満足するようになる。
すなわち自己の成長よりも、より多くの「お金」によりたくさんの「快楽」を手に入れようとするのだ。
似たような話は、立身出世物語にもよく見られる。かつて貧乏だった若者が「金持ちになりたい」という一心で一生懸命働き、やっと成功した時に人生を振り返る。
「お金」がようやく手に入り始めた頃は仕事も楽しかった。やればやるだけ儲かった。
しかし、たとえ成功して「お金」をたくさん手に入れ、いかに多くの「快楽」を得ても、いつか、自分が幸福でない事実に気づき、愕然とするのである。
「私は一体何をしてきたのだろうか」と。
仕事をすることで「幸福」を作り出したいのであれば、「お金」を目的にしてはならない。「快楽」は手に入るかもしれないが、「幸福」は自己成長と努力によって得られるものである。
すなわち、幸福感の鍵は、「結果よりプロセス」だ。
多くの人が知るように、「プロセス」がつらく、長い道のりであればあるほど、達成した時の喜びや幸福感は大きい。
そういう意味では、辛いことからすぐ逃げてはいけない、というのは当たっている。結局は幸福感を自ら放棄することになる。
ユダヤ教の話題を取り上げたことがあったが、彼らの戒律の厳しさは、生活が貧しくとも、迫害されても「幸福感」を失わないための壮大な仕掛けだったのかもしれない。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)