ある飲み会での話だ。若手の技術者と、30代半ばのベテラン技術者が、熱心に話し込んでいた。

 

若手は仕事が楽しくないようだ。

「仕事を始めた頃は憶えることばかりで楽しかったんですけどね……。」

ベテランの方はそれを聞いてうなずいている。

「まあ、そうだよね。仕事って、大変だよ。」

 

若手の彼はビールをあおった。

「先輩はどうなんですか。仕事。」

「うーん、オレは仕事を楽しくする方法を教えてもらったからな。」

「なんですか、それ。」

「仕事って、基本的にこちらからアクションしないとつまらないんだよ。だから自分の行動に変化を持たせて、ある程度楽しくすることはできる」

「ホントですか?」

「うん。仕事って、ちょっとしたきっかけでつまらなくなるじゃない。上司と喧嘩した、とか。でも逆にちょっとしたきっかけで面白くできてしまう。」

「ちょっとしたきっかけで、面白くできる……。」

「オレ、前の仕事がつまらなくて、ここに転職してきたんだよ。でも転職しても仕事は楽しくならなかった。だから「ああ、これは転職しても同じなんだ」と思った。」

「やっぱり、転職しても一緒ですかね。」

「少なくともオレはそうだった。だから、当時の先輩に相談したんだ。」

「へえ……。で、どうだったんですか?」

「うん。なかなかいい話でさ、興味ある?」

「あります」

 

若手はうなずいて、店員を呼び、ビールを注文した。

「話が長くなりそうですからね。」

「気が利くな。」

若手は褒められて嬉しそうだ。そして向き直って言った。

「で、どんな話だったんですか?」

「うん、まず言われたのが、「仕事と思うな。イベントと思え。」だった。」

「全く意味がわからないんですが。」

「オレも同じ事言ったよ。で、先輩の説明は「孤独に仕事するのは一番つまらない。自分が「部品」になった気持ちになるだけ。皆で1年かけてイベントをやってていると思え。みんな役割が割り当てられていて、それぞれが重要だ」って言ってたかな。」

「イベントですか……。」

「イベントの準備って、実は地味な裏方の仕事って多いでしょ。でも楽しくできる。」

「確かにそうです。」

「だから、要するに先輩が言いたかったのは「仕事を楽しくする上で重要なのは、中身じゃなくて組織への参画意識」てことだと思う。」

「なるほど……。」

 

若手は店員が運んできたビールを皆に分ける。

「それだけですか?」

「次は、「目標をノルマと思うな、チャレンジと思え」ってやつだった。」

「何がちがうんですか?」

「ノルマは与えられたもの、チャレンジは自分で設定するもの。」

「なるほど。でもそれって、精神論じゃないですか?」

「何言っているんだ、楽しいかどうかなんて、100%主観的な、精神の話じゃないのか?」

「ま、そりゃそうです。」

「先輩が言ったのは「やらされてるって思えば思うほど、自分が惨めになる。どうせなら自分でもっと高みを目指せ。」だったかな。だからオレは、いつも会社が決めた目標よりも自分の中で高い目標を持つことにしてる。」

「大変じゃないですか?」

「うーん、なんというか……自分で決めたものじゃないと、面白くないだろう?そういうことだと思う。」

 

ベテラン社員はビールを飲み干した。

「次は、「お金のためでなく、自分のために」だったかな、」

「お金のためと、自分のためとは違うのですか?一緒にも聞こえますが。」

「オレもそう思ったんだけど、違うんだと。「お金に情熱をかけられるのは、それだけで才能。普通の人はお金にそこまで入れ込めない。だから、自分の幸福を中心にして働くんだ」って言ってたかな。」

「自分の幸福のため……。」

「そう。」

「自分の幸福って、あまり考えてませんでしたね。」

「例えば先輩は、「誰も笑顔にならない仕事は、給料高くてもすぐ辞める」って言ってたぞ。まあオレは「新しい技能が身につかない時は、すぐに辞める」だけどな。こればかりは人によって随分違うからな。」

「なるほど、それならわかりやすいですね。」

「そうそう。」

 

若手がビールを注文しようとするが、なかなか店員が来ない。ベテラン社員は「次はオレが注文してくるよ」と言って、席を立った。

彼はじっと考え込んでいる。「楽しく……仕事……。」

 

彼がブツブツ言っていると、ベテランが戻ってきた。

「じゃ、次の話な。次は「良い上司はこき使え、無能な上司は褒めちぎれ。」」

「……何ですかそれ。」

「先輩、上司の扱いが上手くてさ、わかってんだよね。「良い上司は、役に立ちたい。無能な上司は褒められたい」っ思ってるってさ。」

「あー……。」

「良い上司は部下の役に立てば立つほど喜ぶ。おもいっきり使い倒せ、ダメな上司はとりあえず褒めちぎれ。何も言ってこなくなる、って言ってたよ。」

「なるほど、それ、凄い心当たりがあります。」

「これ聞いたとき、先輩わかってるな―、って思ったよ。実際、めちゃめちゃ役に立った。上司の邪魔は100%無くなる。」

「上司への対処って、シンプルですね。」

「そう、結構これ普遍的。」

 

若手は大分吹っ切れたようだ。

「ありがとうございます。」

「最後に一つあるんだよ。」

「聞かせてください。」

「先輩は、「疲れたら休め。休めないと仕事はどんどんつまらなくなる。」って言ってた。ま、これは当たり前だけど、疲れているとネガティブに考えがちになるからな。」

「でも、休みって取りづらくないですか?」

「それ、オレも先輩に言ったんだよね。そしたら、「短い休みを散発的に取ると、印象も悪いし、何より休んだ気がしない。それよりもまとめて1週間くらいガッチリ休むのが、いい休み方。あらかじめ年初に計画しとけ。」って言われた。たしかこれが一番いいと思う。」

 

 

飲み会も終わり、その若手は心なしか、吹っ切れたようだった。

ベテランの方はさり際に言った。

「仕事を楽しくするのは、皆でやるべきことだから、抱え込むなよ。」

 

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