彼は、フリーランスをやっていた。webページ作成等の案件を、知り合いからもらい、悠々と暮らしている。独り身で、いつも同じ服を着ており、いつ働いているかもよくわからない。
「就職しようと思わなかったの?」と聞くと、「オレはお世辞が苦手だから、就職しても会社に馴染めない」と、言う。
彼に、「もっと仕事お願いできない?」と聞くと、「やる気が無いからムリ」と言う。
そんな彼だが、面白いことに彼はいつも幸せそうだった。
「まあ、適当に楽しく生きているよ」というのが彼の口癖であり、いつも飄々としている。
その日は彼にしては珍しく饒舌だった。
「いやー、毎日楽しいよ。」と彼は言う。
「何が?」と切り返すと彼は、
「全部」と言う。
私が怪訝な顔をすると、彼は、ニヤリと笑い、「なんの才能もカネもないやつが、楽しく生きる方法を教えてやる」と言った。
「一つ目。早起きする。」と、彼は言った。
「早起き?」
「朝はいい気分になれる。夜はろくなことを考えないから、早く寝ちまうんだ。」
「二つ目は?」
「二つ目、本を読む。」
「本?それだけ?」
「図書館に行って、本を読めば、金なんかいらないって思える。想像することは最高の楽しみだ。大抵のことは、本を見れば解決する。」
「三つ目は?」
「下を向かない。」
「下を向かない?」
「空を見てあるくと、気分が晴れる。」
「なんか変な精神論のような気がする。」
「何言ってんだ。楽しいかどうかは、心が決めるだろう。」
「まあ、そりゃそうだ。」
「四つ目。嫌な奴とは、付き合わない。」
「ほう。」
「嫌なやつとは付き合わない。お互いの幸せのために。人生の基本だ。」
「なるほど。それはそうかも。」
「五つ目は…。」
「まだあるの?」
「これで最後。「面倒だ」と言わない。」
「…?」
「面倒なことが、楽しいんだよ。カンタンに済ませようとするから、ほんとうに楽しいことが見えないんだ。」
「達観しているな。」
「何言ってんだ。楽しく生きるのが第一目的だろう。」
残念ながら、私は彼の境地に達することは出来なかった。
が、それでも、彼の言ったことを時どき思い出す。
どんな境遇でも、楽しくあることは可能なのだ。
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