「変化が大事、変化が大事って言うけどさ、変化ばっかりしているから、成長できないんだよ。」と、その経営者は言った。

「変化には反対ですか?」と、私は聞いた。

「いいや、別に反対じゃない。」

「それでは、先ほどのお話の意図はどういうことですか?」

社長は言いたいことがうまく表現できないようだ。腕組みをして考えている。

 

「そうだな。」

社長はようやく口を開いた。

「変化やスピードが大事だ、っていう今の風潮に一言申したい、と言うイメージかな。」

「なるほど…。申し訳ないのですが、私にはまだうまく意図が理解できません。」

社長は私に向かって、ゆっくりと話す。

「変化できないから困っている会社は多い」

「そうですね。」

「でも、それ以上に、変化しすぎて、軸を見失った会社がたくさんあるということだ。」

 

彼の経営する会社は、かつて大きく成長した時期があった。年率30%以上の成長を4期にわたって実現した。

「でも、その後成長が止まった。なんとか現状を変えようと、手当たり次第に様々な作戦をうってみて、うまく行ったものだけ残す、ということをやったんだ。いわゆる、PDCAサイクルっていうやつだ。」

「結果はどうだったのですか?」

「散々だったよ。」

「…。」

「半年、1年単位で作戦を変えて、新しいことをやって、でもダメだった。」

「なぜ、今また成長軌道に乗ったのですか?」

「変化することをやめたからだよ。」

 

彼は言った。

「例えば、webサイトからの引き合いを増やそうとする。でも、きちんとwebへの検索流入を増やすのは最低でも1年以上はかかる。要は、短期的な成果を追い求めるのではなく、長期的に腰を据えてやることが大事だ、ということだ。」

「なるほど。」

「広告などに頼って、一時的にアクセスが増えても、お金が尽きれば元に戻ってしまう。大切なのは、施策の永続性なんだ。」

「…。」

「そういう意味で、私は「辛抱して、一つのことを熱心にやり続ける」ということをしなかった。短期的な成果を求めるのが不適切な場合もある。」

「…。」

「実際、多くの会社は、「変化が大事」ではなく、「変化しないと、落ち着かない」というだけ。小手先のことをいくら変えても、大した成果にはつながらない。じっくりやれない会社は、以前のわれわれのように、何やっても成功しない会社なんだよ。」

 

 

芸術家は、一時期に同じような作風の作品を出し続け、その中から新しいことを生み出すという。

日本語に、「守破離」という言葉があるが、独創的なものを生み出すには、まずは型を踏襲する必要があるとの教えだ。

「長く続けること」が、クリエイティブな結果を生み出すことは、経験的によく知られたことなのだ。上の経営者は、それを意図せず体現しているのかもしれない。

 

 

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