かつて、初代iPhoneの発表会において、故スティーブ・ジョブスは「電話の再発明をした」と語った。実際、電話を超えた電話として世界中に広まったのだが、大きなイノベーションは、「再発明」という言葉がぴったりくる。
さて、iPhoneの考察については他の論評に任せるが、最近「LINE」も再発明をしているのではないだろうか、という話がある。
何を再発明したのか、それは「文字」である。
人間の意志の伝達、活動の記録には古くから文字が使われてきた。古代文字として有名なのはエジプトの「ヒエログリフ」やシュメールの「楔文字」、あるいは古代中国の「漢字」などであるが、その後文字は進化を続け、現代のアルファベットや、アラビア文字、果ては日本のひらがななどへと進化を遂げてきた。
古代の文字は「象形文字」とされるもので、多くは「絵」から発展したものだ。古代においては、絵を簡略化した象形文字で、人間の意図をある程度正確に伝えることができたのだろう。多くは石や粘土板に「彫りつけ」たり、「描い」たりしたものである。
しかし、時代が移り、次第に文字は簡略化、ヒエログリフのように文字そのものに意味を込めるのではなく、文字の組み合わせ(単語など)に意味を込める文字体系が生まれた。
現代では、文字そのものに意味を込める文字として「漢字」は残っているが、使いこなせる人は、世界的に見ればそう多くはない。日本においても「漢字」は簡略化されひらがなやカタカナが生まれている。
文字の進化の原因は数多くあろうが、一つ大きいのは「文字を記す媒体の変化」なのではないかと思う。
すなわち、古代においては粘土板や石などの硬い媒体、これに記すには象形文字などの絵に近い文字や、彫りつける楔文字などが適していた。
また、中国においては紙や布、木簡などが早くから使われ、平たい媒体に筆で書きつけるという状況から、「はらい」や「ハネ」「止め」などが重要な「漢字」が使われた。
古代から中世においても、物理的な媒体に人間が書きつける、という行為が基本であったため、文字は簡略化される方向で進化をとげたのである。
ところが、「活字」という技術が生まれ、文字は別の方向へ進化した。すなわち「フォント」の出現である。同じ文字を見てもフォントのちがいで異なる印象、異なる意味を伝えることができる。
太字にすれば、強調したいという意図を込めることができる。イタリック体にすれば、「特殊な使われ方」というイメージを読者に与えることができる。
「フォント」は文字の再発明だったのだ。
そして現代、媒体は石でも、粘土でも、紙でもない「電子媒体」となった。電子媒体は複製がカンタンで、相当複雑な形も表現することができる。また、文字を書くことにほとんど手間がかからない。タイピングするだけである。
しかし、電子媒体による意思の伝達手段は今までのところ、「メール」や「Webページ」など主として旧来の文字による物が多かった。
だが考えてみて欲しい。複雑な感情や言葉にしにくい表現などは、文字よりも「絵」で伝えるほうがはるかに伝達力がある。文字は簡略化されすぎたがゆえに、複雑なことを表すのは苦手なのだ。
LINEがヒットした要因の一つに、「スタンプ」というものがある。クマやウサギの絵を文字の代わりに意思伝達の手段として使うというものだ。
ここに、LINEが「文字の再発明をした」という話が関わってくる。
現代では手で文字を書く必要がない。したがって、送り手と受け手の間にある程度共通の認識を持てるような「絵」であれば、楽に文字よりも多くの情報を伝えることができる。
「スタンプ」は電子媒体をうまく活用した「現代の象形文字」なのである。
「日本語が乱れて・・・」「手紙を書かない・・・」と嘆く人もいるだろうが、おそらくこれは止まらない。文字の進化の必然なのだろう。
これから、どのような文字が生まれてくるのか、楽しみである。
(2025/7/14更新)
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経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
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鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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