「人と比べないでください」私の知人の会社に、そう上司へ言う新人がいた。
詳しく話を聞くと、その会社では新人研修で課題を与え、競争させ、成績順にランク付けを行った。彼はそのランキングにショックを受けたのか、上司に直接言いに来たそうだ。
その上司は、「今回は負けだが、次は頑張れ」と言ったそうだが、彼は「ランク付けをされるとモチベーションが下がります」と、上司の励ましを無視した。
「こんな若者が増えてるんですかね…」と、その上司は呆れていたそうだ。
知人は「アホな新人が増えて困る」とこぼしていたが、私は「アホ」で片付けられないものを感じた。
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資本主義社会における企業活動は本質的に競争である。競争により効率的、より生産的な存在になるからこそ企業は存続を許されているのであって、非効率な企業(例えば税金で生きながらえているような企業)は原則、退場させられる。
例えば想像してみてほしい。あなたが所属する企業のライバル企業が、あなた方に競争で負けている。彼らは国に助けを求め、税金の助けを借りてあなた方からシェアを奪った。
当然、あなたは憤慨するだろう。「フェアではない」と。それが企業という存在だ。
その企業に、「競争を忌避する人々が入ってきた」という状況がなんとも皮肉である。その新人は、「もっと私の個性を見てください」と言ったそうだ。
上司は「個性もクソもあるか。まずやらなきゃいけないのは、競争に勝とうとすることだ。」と叱ったが、彼には理解されなかった。
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厄介な問題である。確かに、人と自分を比べすぎることはあまり生産的ではない。妬み、嫉みが行動を止めてしまうからだ。場合によっては「人の足を引っ張る」ことに邁進する人間が出てくる。
だからといって「ありのままでいいんだよ」といった安っぽい言葉を信じるのも愚かだと言わざるを得ない。企業で働く以上、誰だってありのままでは困る。
社員の成長がなければ、その社員をクビにするか、企業も一緒に死ぬかどちらかの選択肢しかない。要は、バランスである。
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その上司は後日、その新人とまた話をした。
「比べられたくない、っていう気持ちはわかった。安易な比較は、君のモチベーションを損なう、ということもよくわかった。」
「はい。」
「だが、企業においては、競争に勝たなければいけない、ということも理解してほしい。」
「…。」
「研修は、皆をランク付けすることが目的ではない。皆にもっと学んで欲しいが故に、発破をかけるつもりでやったことだ。だから、あのようにランキングを大きく打ち出したのは、あまり良くないことだったかもしれない。」
「そこまでは…気にしてるわけじゃないですが…。」
「君は、競争したくないのかい?」
「…。いえ、競争が必要ということは頭では理解しています。私も、同じ質なら安いものを買いますから。」
「そうか、それなら良かった。」
「でも、やっぱり競争させられるのは、性に合いません。」
「なぜ?」
「…なんというか…、頑張って負けたら惨めですから」
「負けるのが嫌だから、最初から勝負しない…ということ?」
「勝ち負けにそんなにこだわっているわけじゃないですが、無駄な努力はしたくないです。」
「わかった。そこまでいうなら別に競争なんかしなくていい。」
「…?」
「だが、給料分はきっちり働け。それ以上は求めない。」
「…わかりました。」
その上司は、後日、この新人についてこう言った。
「まあ、今すぐわからなくてもいいよ。勝ち負けは真に重要なことではないし、こだわり過ぎるのも良くない。でも、人間はほとんどが、心の奥では競争で勝ちたいと思っているだろうから、仕事がうまく行けば自然と変わるだろう。時間はかかるだろうが。」
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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(Photo:Steve Harwood)