一昔前、管理職研修などで「人は期待されるとやる気が出るので、上司は部下に期待しましょう」という話を聞いた。
なるほど、と思った。期待されれば、人は頑張るようになるとその時は私も思った。
だが、人間はそんなに単純ではなかったようだ。
その話を知人の経営者にしたところ、かれは「そんなにうまくいくかなあ」と懐疑的であった。
私はその理由を聞いた。
「人って、期待されると2通りの反応があると思うよ」
と彼は言った。
「自分は、以前はいつも部下に期待をしていた。一生懸命やってくれるんじゃないか、成果をあげるまできっちり仕事をしてくれるんじゃないかとね。」
私は頷いた。
「でも、現場の反応ははっきりと「期待されて嬉しい」という人たちと「そんなに期待しないで下さい、重いです」という人たちに分かれた。」
確かに言われてみれば、私も時と場合により、期待が重いと感じるときもあった。私は彼に
「確かに、過剰な期待はむしろ怖い。」と言った。
「そうだろう、特に、2、3人の部下は、期待されても絶対に「頑張ります」と言わないんだ。せいぜい良くて「まあ、やってみます」程度だったよ。私は反応が薄いので「お前はやる気が無いのか」と怒ってしまった時もあった」
「ふーん。」
「彼らは、自分たちへの期待を一生懸命下げようとするんだ。「あまり期待しないで下さい」とか「当てにしないで下さい」とかね。」
ありそうな話だ、と私は思った。
「で、彼らは期待通りにやってくれた?」
「いや、人による、としか言いようがない。やる人はきちんとやるし、やらない人はやらない。」
「まあ、そうだろう」
彼は、笑みを浮かべて言った。
「でも、「頑張ります」と言った連中も、同じだった。結局期待しようが、そうでなかろうが、やる人はやる、やらない人はやらない。」
「そんなもんかね」
「結局わたしは、部下に「期待していた」というきれいな言葉を使っていたけれど、内心は不安でしょうがなかった。だから、部下から「頑張ります」という一言が欲しかっただけなんだよ。それがわかって、もう部下に期待するのは、やめた。」
「ずいぶん冷たいように聞こえるが」
「期待、っていうのはこっちの気持ちだろう。それを中心にしちゃダメだ。そうではなくて、任せる、というほうが幾分マシだ。任せる、というのは相手が中心だからね。」
「あまり違わないようにも思うけど」
「そうかな、期待してる、って言うよりも、任せる、と言ったほうが、皆の反応は格段に良かった。まあ、言葉遊びなのかもしれないが。」
確かに、過剰な期待が部下にプレッシャーを与えすぎてしまう、という話もちらほら聞く。しかし振り返ると、単にそれは自分の不安の裏返しである、といえるのかもしれない。
「期待している」という気持ちは、そういった不安を内包している。それを見透かした部下が「重いですよ」と言うのかもしれない。
(2024/3/13更新)
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