学校と同じく、新卒で会社に入ると、皆、能力的には似たり寄ったりの人々が集まるものだ。「選考」というフィルタをくぐり抜けてきた人々であるから、有しているバックグラウンドも似ていることが多い。
それにも関わらず、仕事をして3年〜5年くらい経つと、全体の10%程度の割合で頭角を現す人がいる。彼らは大きな成果を出す。
ある商社の新人は、たった入社5年で子会社の立て直しの命を受け、子会社の社長に就任、赤字の会社を黒字に転換した。
ある事務機器製造業の新人は、新商品の開発プロジェクトで抜きん出た交渉力を発揮し、社内では「交渉はあいつに任せておけば大丈夫」と言われるまでになっていた。
あるシステム開発会社の若手は、入社数年で社員教育のカリキュラムを全て作成し、教育も自分で行い、会社全体の技術レベルを短期間のうちに引き上げた。
彼らの話は出来過ぎている、と思うだろうか?
だが、彼らは能力的にはとくに天才でもなく、入社時の実力が抜きん出ていたわけでもない。「プロとして仕事を愚直ににやろう」としただけだ。
例えば、上に紹介したシステム開発会社の若手はまず考えた。
「人の嫌がることを進んでやろう。先輩の役に立とう」
彼は、だれも余計な仕事としてやりたがらなかった「新人教育のテキスト作成」を自らなのり出た。幾人かからテキストのクオリティを危惧する声が上がったが、結局代わりに手を挙げるものはだれもいなかった。
彼は次に考えた。
「成果にこだわろう」
彼は新人教育が何を目指すべきものなのかを考えた。昨年度までの教育のカリキュラムについて検討し、部長へヒアリングを行い、指導を仰いだ。彼は、目標は高く持つべきものと捉え、カリキュラムを分解し、全体を31の項目に分割した。
彼は目標を「今年の新人が、31項目を半年間でマスターする」ものと決めた。
彼が次にとりかかったのはカリキュラムの作成だった。彼は
「事例に学ぼう」と決めた。
彼は就業時間後に様々な会社の教育プログラムに参加し、また大量の技術書を分析し、どのステップで学習を行えば知識の吸収が最適化されるかを検証した。
web上にも大量の情報があったが、彼は「質の高い情報は本の中にある」と、十数冊の本を全て読み込んだ。
彼はまた、社内の意見を集めることにも熱心だった。上司や先輩に意見を求め、時に飲みに行くなど、彼の行うプロジェクトに手を貸してもらえるよう、手をつくした。
彼のテキストは公式、非公式にレビューされ、精度を高めた。
次に彼は
「今までにやったことのないことを少しは取り入れよう」と決めた。
それまで社内教育は講師が教え、新人が問題を解くスタイルで行っていたが、一部に「反転学習」を取り入れた。すなわちカリキュラムの動画を予め見てくるように指示し、現場では実習のみを行った。
アンケートを取り、満足度を調査し、最適な学習スタイルへ調節を行った。
最後に彼は
「教育を受ける人たちを動機づけしよう」と決めた。
そのために、彼は高く夢を掲げた。
「我々は31項目を半年間でやりきらないとだめです。苦しい道だけど、これは通常のカリキュラムの1.5倍のスピードに当たります。でも、私の言うとおりにきちんとこなせば、絶対に一人前のエンジニアになれます。それを目指しませんか」
新人たちは高い目標に鼓舞され、全員がカリキュラムの最終テストをパスした。
彼は天才だったか?おそらくそうではない。
ずば抜けて明晰だったか?おそらくそうではない。
彼は主体的に考え、当たり前のことを確実に実行しただけだ。
実際、仕事は奇抜なアイデアを出す人ではなく、きちんと考え、愚直に手を動かすひとが成果を出す。それだけの話だ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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・ブログが本になりました。
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