「部下を叱らない上司」が増えている。

もちろん「部下を叱れない」上司は上司失格なのだが、「叱れない」ではなくあえて「叱らない」なのだ。それは一種のリスク対策である。

 

 

ある研修講師の方は、

「部下を叱ると簡単に会社をやめてしまうので、上司はなかなかキツく言いません。「 研修をして欲しい」という会社の大きな要望の1つは「上司のかわりに、講師に社員を叱って欲しい」なんですよ。

ある会社では、講師が社員を叱って、人事の方々と上司が叱られた人のフォローに回っていました。」

 

「叱る行為」の外注化により、管理職はリスクをとらなくて済むようになる。

 

 

また、ある経営者は「パワハラだ」と触れ回ったりする人への対策という。

「厳しい上司には必ずアンチがいて、社内で結束するんですよね。

でも私から見ればきっちり部下に厳しく言えない管理職の方がむしろ心配。でもアンチの方々はとにかくオーバーに噂をするので、他の社員も当惑しています。」

「どんな噂ですか?」

「ウチの部長が「成果も出てないのに定時で帰るな」と言ったとか、「特定の女子社員を贔屓している」とか。

でも、話をよく聴くと、半日程度の軽い仕事に1週間もかけているのを見て、「終わらせて帰れ」といったとか、女子社員の家庭の事情の相談に乗って、時短勤務を認めてあげたとか、そんな話でした。

彼らは一部だけを取り上げて、誇張するんですよね。

そんな話があってから「信頼関係のある人にしか叱らなくていい」と言っています。」

 

 

ある大手製造業の管理職は、遅刻と無断欠勤を繰り返す社員の勤務態度があまりにもひどいので、

「やる気が無いならもう来るな」

といった所、本当に会社に来なくなり、おまけに仕返しなのか、SNSに個人名を書かれたそうだ。

彼はそれ以来、ダメ社員は叱らず、有能な社員だけを叱るようになった。

「ダメな奴は、叱るとますますダメになるから、もう放っておきます。」と彼は言う。

 

 

日本電産の創業者で、人を苛烈に叱ることで有名な永守重信氏はその著書※1において、「幹部ほど叱り、新人にはあまり叱らない」と述べる。

その話が出た席上で、あるスタートアップ企業の経営者はこう言った。

「もちろん、見込みのある人にしか叱りませんよ。今は「叱る」という行為がとてもリスキーですからね。」

「そうなんですか?」

「情報が回りやすいですから。インターネットの掲示板や就職活動の口コミサイトとかにすぐ書かれてしまうわけですよ。」

「ほう」

「一部の悪質なクレーマー対策みたいなものです。「叱られる」というのはウチではむしろいい事なんですよ。信頼され、期待されているってことです。ま、いずれにせよ叱るというのは安易にはできません。」

 

 

結局のところ「叱る」という行為を、かなり相手を選ぶ行為と彼らは感じている。

「叱って伸ばす」は、無くなりつつある。

 

 

 

 

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※1

 

 

(Alvaro Tapia)