知人からある起業家についての話を聞いた。

 

「起業は注文をもらってからせよ」

という「起業」に関しての本質的な示唆が含まれていると感じたので、書いてみたい。

 

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ある起業家がいた。彼は勤め人であったが、独立を考えていた。

ただ、彼には企業のノウハウがなかった。そこで彼は「ビジネススクールに通わなければ」と考えた。「経営について、知識がない状態で独立をするのは危険だ」と思ったからだ。

 

彼は辛抱して大学に通い、独立を目指して勉強した。学費や生活費を合わせて数百万の投資だった。

だあ2年の勉強の甲斐あって、彼は「マーケティング」や「戦略」について詳しく知るようになった。事例も数多く見ることができた。

 

その後彼は会社に戻り、独立の準備を進めることにした。

彼がとりかかったのが「ビジネスモデルの構築」だった。

彼は考えた末、勤め先の会社と同じような商売をすることにした。ノウハウもある、マーケットも有望だ。いざとなれば自分の知り合いを当たれば良い…。彼はそう考えた。何の問題もない。やるべきことはわかった。

 

 

残る問題は起業の資金だった。彼は貯金があったが、少し心もとない金額だった。彼は実家に頭を下げて、数百万を借りた。「これだけあれば十分だろう」と、彼は思った。

 

次にとりかかったのが会社設立のための書類作成だった。「会社としての体をなすには規程がないとダメだ。」定款から就業規則までを、友人の力を借りて作り上げた。

「書類は完璧に出来上がった。後はオフィスだな」

彼は独立と同時にオフィスを借りることにした。

 

彼は知り合いの不動産をあたり、オフィスを借りた。「接客をするのだから、それなりに立派なオフィスでないとマズいだろう」と考え、30坪のそれなりの広さのオフィスを借りた。

「内装もきちんとしなければ」と、オフィス什器もブランド物を揃えた。

オフィスと什器への初期投資は400万円を超えたが、「会社はキチンとしているように見えなければならない」と、彼は言った。

事務員として嘱託社員も雇った。「彼は大企業での経験があって、とても優秀なんだよ」と彼は言った。

 

 

知人は「そうか、で、商売はうまくいっているの?」と聞いた。

「あいさつ回りは終わったよ。まだ仕事は来てないけどね。まあ知り合いもたくさんいるし、大丈夫だよ。」

と彼はいう。

だが、起業から半年以上たった今も、仕事は無いようだ。

 

 

 

 

別のある経営者も、独立しようと思っていた。

だが、彼は「経営の勉強」も「オフィス」も「規程」も何一つ持とうとしなかった。

彼が行ったのは、ただひとつだった。自分がやろうとしていた「コンサルティング業」が本当にうまくいくのか、「仕事を出すよ」と言ってくれている人が本当に仕事をくれるのか、それを検証した。

つまり、今の会社に在籍しながら「アルバイト」を始めたのだ。はじめは週に1回程度、熱心に取り組んだおかげで、徐々にそれは増え、アルバイトが週に4回を超えた時、彼は独立した。

 

 

Airbnbというサービスがある。「空き部屋を、旅行者に貸し出せる」というサービスだ。我々もAirbnbを長い期間やっているので、「Airbnbを自宅で始めたい」という方が数多くくる。

その時によく聞かれるのが「◯◯を揃えたほうがいいですか?」という質問だ。つまり、家具を買ったりしなければならないのか、と聞かれる。

そこではいつも

「とりあえず最初に部屋をAirbnbに掲載してみて、旅行者を泊めてみてください。何かが足りなかったら、その時点で買いに行けばいいんです」

と、お応えしている。

 

 

靴のECで大きな成功を成し遂げたザッポスは、起業にあたり、最初の仕事が取れるまでECサイトも、靴の在庫も持たなかった。

「本当にオンラインで靴が売れるのか」わからなかったからだ。

そこで彼は、近くの靴屋に行き、写真を取り、webサイトにアップして「注文を受け、その靴屋から買って、顧客に送った」のだった。

オンラインで靴が売れることはわかった。後は大きくするだけだった。※1

 

 

かつての私の上司は、「受注ファースト」「商品は、注文をもらってから考えろ」と言った。

起業も全く同じである。

「起業は注文をもらってからせよ」

この辺りの感覚があるかどうかで、起業の成否は分かれるのではないかと思う。

 

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


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ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
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・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
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・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

 

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