「マニュアル通りの対応では、お客様の心はつかめない」とよく聞く。あまりに頻繁に耳にするせいか、「マニュアル」という言葉自体になんとなくマイナスのイメージを抱いてしまっていた。
一方、そんな私の仕事の1つに「マニュアル化」がある。バラバラと散らばっている過去の積み重ねをキレイにまとめることが仕事の1つとしてあるのだ。
☆★☆★☆
社員歴1年目の私は、仕事を教えるより教わる立場であることが圧倒的に多い。先輩から仕事を頼まれ、やってみる。ミスなくできることもあるが、ミスしてしまうこともある。
「できました。」
「ありがとう。……あれ、ここ違うよ。」
「すみません、やり直します。」
「教えてないから仕方ないよ。教えておくべきだったね。」
「いえ、私が気づくべきでした」
こんなやり取りをしたことがある。
その先輩はこう語った。
「教えなくても自分で気づいてほしいという思いは確かにある。ただ、真っ白な状態で気づける人と気づけない人がいて、世の中の大多数の人は後者だ。
だから何も与えずに放り出すだけでは、多くの場合、本人は成長したつもりになっても、実際はあまり成長していない。気づける人と気づけない人とでは、スタートラインから違っている。」
確かに「自分で気づこうとすること」「自分で気づけること」は大切だ。ただ、自分で気づけるかどうかにかかわらず、過去の積み重ねを引き継いだ上で新たなことに気づいた方が、より上に行けるのだろう。
時間は有限なのだから、既に先輩が知っていることに気づくより、わかっていることは教わり、スタートラインを引き上げた状態で新たなことを発見したい。(もちろん、気づけなかったことは反省した上での話である。)
マニュアルは、先輩の知識、過去の積み重ねを次の人に伝えるためにある。
「社員はいずれ会社を辞める。人はいつか死ぬし、転職・退職する可能性もある。でも、せっかく積み重ねてきて、その人がいなくなったらゼロからやり直し、では、いつまでたっても進歩がないでしょ。だから、過去の積み重ねをマニュアル化することには大きな意味があるんだよ」
先輩のこの説明を聞いて、私はマニュアル化する仕事を前向きに捉えるようになった。
同時に、世の中に存在する様々なマニュアルに対するマイナスイメージが、少し和らいだ。「マニュアル通りに動け」と言われたら、「マニュアルなんて」と反発したくなるが、マニュアルを知っていることには、意味があると思う。
ここでハッと思い出した2つの出来事がある。1つは新人研修。もう1つは別の先輩のメッセージだ。
◆新人研修
会社から内定をもらい、いよいよ社会人になるというとき、研修を受けた。いわゆる新人研修だ。そこでは、様々な「型」を教わった。
挨拶の「型」、上司に呼ばれたときの「型」、電話応対の「型」……。いわゆるビジネスマナーも、ある種のマニュアルである。「マニュアル通りに動くように訓練される」ことには反発したくなるが、「マニュアルを知り、練習して使えるようになる」研修は有意義だ。研修で学んだことは、実際に働き始めてからも役立っている。
◆先輩のメッセージ
新人研修について感じたことを先輩に伝えたところ、次のメッセージが返ってきた。
「型を知った上で自己流にアレンジするのと、型を知らないで最初から自己流でいくのは、全然違うんだよ」
私が受けた新人研修は、仕事で相手に良い印象を与えるための、過去の膨大な積み重ねを「型」として引き継ぐ時間だったのかもしれない。
☆★☆★☆
毎日気づきがある社会人生活は、本当に楽しい。これからも、何かを発見するために私は働き続けるんだろうな、と思う。さて、今日も「マニュアル化」の仕事をするか!
ではまた!
次も読んでね!
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前: きゅうり(矢野 友理)
2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。
著書「数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」」(マイナビ、2015)
Twitter:@Xkyuuri
ブログ:http://kyuuchan.hatenablog.com/「微男微女」