ある会社でインターンを実施した時の話だ。
一通りのカリキュラムを終えてもらい、アンケートを取った。そして、そのアンケートの中に、「なんでも疑問があったら書いて下さい」という設問があったのだが、そこに面白い疑問が書いてあった。
「なぜ、管理職は給料が高いのですか? プロ野球チームは監督よりも現場のほうが給料がいいですよね。
管理職の方が「いや、僕の仕事は現場じゃなくて、皆が仕事しやすいような環境を作ることだから」と言っていたので、気になりました。」
素朴だが重要な疑問だ。これを管理職の方に見せたところ、誠実に回答していたので、抜粋をご紹介する。
質問ありがとうございます。
「管理職はなんで給料が高いんですか?」という疑問、最もだと思いました。順を追って回答します。まず、給料がどうやって決まるのか、という話です。
普通、給料は「成果への貢献度」によって決まります。つまりプロ野球であれば「チームの勝利への貢献度」によって給料が決まります。監督よりも選手のほうが貢献度が高い、とみなされているということです。
ここまでは大丈夫ですね?
では、会社において「成果への貢献度」が高いのは一体誰なのでしょうか。現場なのか管理職なのか。ここが見えにくいので、なんで給料が高いの?という疑問はもっともだと思います。
まずひとつ目の理由は、「昔に頑張って成果をあげたので、今給料を上げてもらっている」という話です。要するに、昔の貢献に対して支払われている、と言っても良いでしょう。
日本の年功序列制は、若い時には給料を押さえ気味にしてたくさん働かせ、ベテランになってから逆に仕事を押さえ気味にして、給料を高くする、という方式を取ってきました。
ですから、部長は昔頑張った人なんだ、と思って下さい。
でも、こんな理由では普通納得しないですよね、私も納得しません。結局「なんで部長は働かず、ラクをしているのに給料高いのか。いま頑張っている人に報いるべき」って言われますよね。
だから、年功序列制は崩壊したんです。
今多くの会社では「管理職の給料が高い」理由は上に挙げたものではありません。
それでは、改めて「管理職」はどのように会社に貢献しているのか、考えてみましょう。
会社の成果は「お客さんの役に立つサービス・商品を提供して、お金を払ってもらうこと」です。
それを会社が実現するには、次のことが必要です。
1.サービス・商品の構想を練る
2.サービス・商品を作る
3.売る
4.人を採用・育成する
5.サービス・商品を改善する
6.売り方を改善する
7.お金を回収して、再投資する
シンプルですね。これさえやれば会社は成り立ちます。創業時には社長や起業メンバーがこれらをすべてやります。
でも、会社が大きくなってくると徐々に「それぞれが得意なことをしよう」と、分業化が進みます。
構想を練る人、商品を作る人、商品を売る人、採用をする人、お金の管理をする人など、特化した仕事をする人が出るのです。
でも、考えてみてください。例えば商品を作る人が10人いたとして、彼らをどうやって束ねれば良いのでしょう?
どうやって「構想通りか」を検証したり、「改善」をやらせたりすればいいのでしょう。そして「スキルの低い人」を育成すればいいのでしょう。
ここで初めて登場するのが「管理職」です。
管理職は上にあげた仕事をします。構想通りに部門が動いているか、改善は進んでいるか、人のスキルに問題はないか、そしてその結果として成果は出ているのか、そういった面倒なことを一手に引き受けるのが「管理職」です。
管理職の仕事は、一般的には以下のようなものです。
1.部門の「業績」に責任を持つ
2.部門の「方向、正しい仕事のやり方」に責任を持つ
3.部門の「社員のスキル」に責任を持つ
4.部門の「不手際」に責任を持つ
しかも、これらの仕事は当然「自分」ではなく「部下」にやってもらわなければいけません。管理職はこれらの目的のために人を動かすのです。
ただ、ご想像の通り、人はそう簡単に動きません。頼んだことも正確にやりません。あらゆる問題を起こします。
「人を動かす」仕事は、結構難しい仕事なのです。
話を元に戻しましょう。
「自分一人でできる仕事」であれば、貢献の範囲は「その人のアウトプット」が最大値です。
でも「人を動かせる人」であれば、貢献の範囲は「組織のアウトプット」が最大値になり、個人が出力できる貢献とはケタ違いの貢献になります。
プロスポーツ選手は、動かす構成員の数が少ないので、監督よりも選手のほうが重要ですが、会社のように大きな組織では監督のほうが遥かに重要なのです。
だから、管理職は給料が高く設定されているのです。
納得できる説明だったでしょうか?
今は、管理職になりたくない人もたくさんいます。自分の面倒だけでも精一杯だ、という人がいることも理解できます。また、言いたくはありませんが、管理職としての本来の責任を放棄している人もいます。
でも、管理職は重要な仕事であり、組織があるかぎりは無くなりません。
若い方々に「管理職にはなりたくない」と思われないためにも、管理職は本来、「あまり働いていないな」と思われてはいけないのかもしれないですね。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】 ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。
(2025/6/2更新)
こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ——
「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。
【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
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