人生で一度、「新卒」というカードを使える時、それが就職活動だ。新卒である、というだけで、どの会社でも未経験で、しかも教育付きで雇ってくれるのだから。確かに「オイシイ」と言わざるをえない。
しかし、「就職」を過大評価する向きもある。
「新卒で良い会社には入れたから、勝ち組確定!」
「就活成功しました。人生楽勝。」
そうおもえば、逆に就活で失敗したと、過剰に嘆く人もいる。
「就活失敗、人生終わった。」
「新卒カードを使ってしまったら、復活できない」
と将来を嘆くあまり、自殺者まで出てしまうような状況だ。
だが、すこし立ち止まって考えてみる。「就活失敗」は人生を左右するくらい大きなことなのだろうか。例えば、同じ学校を出て、同じような経歴を持つ人間が二人いたとする。
就活……
一人は運良く第一志望の会社に入ることができた。給料も良く、休日もきちんと取れ、まったり働くことができる。ネームバリューもある。
一方でもう一人は志望していなかった、不本意な会社にしか就職できなかった。会社名を人に告げても、「どこそれ?」と言う反応、もしくは「お気の毒に」といった同情を寄せられることもある。
入社……
前者の彼は、波風をたてることなく「普通」に仕事をこなす人生だ。無茶な目標を言われる事もなく、諸先輩がたの手厚いサポートの元で仕事ができる。残業はほとんどない。
このまま35歳くらいまで頑張れば、取り敢えず700万円くらいの年収にはなるだろう。
後者の彼は、初っ端から激務だ。長時間労働になることも多く、まともな教育制度もない。すぐに現場に放り込まれ、「盗んで覚えろ」と言われる。もちろん、まともなマネジメントなど期待できない厳しい環境だ。
だが、現場の裁量は大きく、ある程度自由にやることができる。また、人手が足りていないので、自分から名乗り出れば大きなことも任せてもらえる。彼は現在の状況を受け入れ「この会社で頑張る」ことに決めた。
3年後……
前者の彼は、手厚い職場のおかげで、勉強はできたが、「ずっと下っ端」だった。どんなにできる人物であっても上には人がたくさんおり早い出世は望めない。
やっている仕事としては大きな仕事なのだが、自分が裁量を発揮できることは少なく、本部の「品質管理基準」や「マニュアル」などに忠実に従って仕事をこなさなくてはならない。
また「管理職」になれるのは大体40歳くらい。10年以上の下積みを辛抱強くこなして、ようやくリーダーとしての仕事ができるようになる。仕事は楽で、給料は順調にあがっているのだが、彼は自分が「大きな歯車の一部」であると感じるようになっていた。
後者の彼は入社3年で既に「リーダー」を任されるようになる。この会社は完全に実力主義のため、できる人はどんどん上に行くことができるからだ。
彼の「ココで腹をくくってやるしかない」と開きなおったその姿勢が徐々に認められ、社内の信頼を勝ち得るようになっていた。
面白いことに、成果が出れば出るほど彼は自分の会社を好きになっていた。だが困ったことに、彼の給料はほとんど上がっていない。将来が不安である、というのは否定できなかった。
6年後……
前者の彼は何回かの部署異動で、今は「あまり面白くない仕事」をやらざるを得ない状況だった。しかし、会社の人事ローテーションは絶対だ。文句をいう立場ではない。恐らく今後、転勤なども待っているだろう。
仕事は相変わらずだ。仕事は大きいが、自分のデキる仕事の範囲は限られており、何かを始めようとすると上司のハンコが大量に必要なので、彼は「新しいことをしよう」という意欲は殆ど無くしてしまっていた。
たまに「転職」の2文字が頭に浮かぶが、ほとんどの場合待遇が下がるので、積極的に会社を変える気も起きない。
後者の彼はついに転職を決意した。育ててもらった恩は感じているが、流石に将来が怖い。「こんなに安い給料で働いていたのですか」とエージェントに驚かれるが、実績があるので「転職先はたくさんありますよ」と言われる。
彼はそれまでの経験から「裁量が発揮できる所が良い」と思っていたので、それをエージェントに告げると、かなり多くの会社からオファーがあった。
オファーの中身は玉石混交だが、自分の目を信じて、様々な会社に話を聞きに行く。すると「自分の世界がとても狭かった」ことに気づいた。その中で、将来性の有りそうな、少し小さめの会社で、自分の知識が発揮できそうな会社が見つかる。
彼は転職をし、それほど大幅ではないが、給料も上がった。彼はまた、決意を新たにする。
35歳前後になった時、前者と後者、果たしてどちらの人間の市場価値が高いだろうか。
もちろん「働く人の価値観」は様々あるので、一概に言うことはできない。だが、前者と後者を比べた時、「後者の人生は終わっている」と嘆くほどではないと、私は思う。
最初に入る会社は大事だ。だが、それが「成功」だったか「失敗」だったかが決まるのは、働いた後にしかわからない。
多くの就活生の「真の成功」を願うばかりである。
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