以前、仕事でご一緒した方が、こんなことを言っていた。
「自分がよく知らないのに、思い込みで「くだらない」とか決めつけちゃダメですよね。」
「なぜですか?」
「だって、知りもしないで、くだらない、とは言えないはずです。言うんだったら「知らないのでよくわからない」が正解ですよ。」
なるほど、正しい理屈だ。私は同意した。
すると彼は言った。
「皆、思い込みで「くだらない」と決めつけてしまいがちですよね。」
「わかります。」
「そういう私も反省しなきゃということがありまして……」
「何をですか?」
「昨日、友人が「アイドルの追っかけ、面白いよ」と言ってたんですが、私、思わず「30過ぎても、そんなことしているの」と言っちゃったんですよ。」
「ほう。友人の方はご立腹ではなかったですか。」
「言ってから、あー、マズかったなと。」
「そりゃ、いい気分はしないでしょうね。」
「そうです。人の趣味にとやかく言う必要ないじゃないですか。でもそいつは「大丈夫大丈夫、でも皆、面白さを知らないだけだよ。」って言いました。」
「いい人ですね。」
「で、そこから私も思い直して、アイドルの追っかけの話を聞いてみました。何を楽しんでいるか、聞いてみたいと思ったんです。」
「どうでしたか?」
「アイドルの追っかけって、思っていたよりもずっと深いんですね。どのアイドルが今後人気が出るかの読み合い、アイドルとの関係性を通じた権力闘争、確かに一種のゲームですね。ハマる人がいるのも、頷けます。」
「なるほど。」
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あなたが仮に、「アイドルの追っかけ」に対して嫌悪感を抱いていたとしたら、上に出てくる「友人」にたいして「信用出来ない」とか「変な人」と思ったのではないだろうか。
この「一部の情報から、全体を勝手に推定する(そしておそらく間違っている)」現象は、心理学においては「ハロー効果」という。
ハロー効果は判断に大きな影響を与えることが様々な実験からわかっている。
だが、上に次の情報を追加したらどうだろう。
実は上で出てくる「アイドルの追っかけをしている友人」は、慶応大卒で、急成長しているサービス企業の創業者だ、と言われたら。あなたの印象は変わったのではないだろうか。
彼は休日にはボランティアに参加し、マラソンが好きな青年だ、と言われたら更に印象が変化するのではないだろうか。
だが、「追っかけ」をやっていようが、「ボランティアやマラソン」をやっていようが、このようなわずかな情報から人格を推定することはできない。
要するに、肝心なのはよく知らないことを「思い込みでわかった気になる」のは、頭の悪い行為だということだ。結局、一部を取り出した印象など、全くアテにならないのである。
これは、企業においては特に人事の分野、採用や評価において顕著に現れる。
例えば、マニトバ大学のB・M・スプリングベットは、「面接においては、最初の4分以内に決定が下され、それ以後の時間は最初の評価を確認するために費やされる」と実験結果を発表し、トレド大学のトリシア・プリケットとネハ・ガダ=ジェインも「面接の結果は最初の10秒で下された判断から予測できる」と述べた。※1
※1
さらに、評価も問題である。マネジメント力の低いマネジャーが人事評価に際して最も部下と揉めるのが、この点だ。要するに、部下の一側面だけを見て、その人物の全評価を当てはめようとしてしまう。
例えば、「ハロー効果」を認識していないマネジャーは、このような発言をする。
「オマエはよく遅刻するな。仕事もだらしないんだろう。」
これは間違っている発言だ。
仕事がだらしないかどうかは、仕事を見なければわからない。事実、遅刻をしても有能な人物は数多くいる。遅刻を許せるかどうかは、仕事の出来不出来というより、価値観の問題だ。
そう考えれば、
「長時間働いているから、やる気がある」
「同僚の評判が良いから、信頼できる」
も、人が感情として思う分には全く勝手であるが、人事評価にそのような感情的判断を持ち込むと、正当な評価とは程遠いものとなる。
多くの会社で「結局、評価を好き嫌いで決めている」と評価の際にマネジャーが批判されるのは、決して事実無根ではない。なぜなら、多くのマネジャーが「ハロー効果」を克服できていないからだ。
人間は脳の仕組み上、本質的に思い込みの虜であり、そう簡単に思い込みから逃れることはできない。
だからこそ「自分は知らず知らずのうちに、思い込んでいる」との健全な自己批判ができなければ、簡単に「頭の悪いやつ」になってしまう。「思い込みは、無能の始まり」だ。
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