先週お会いした経営者の話だ。

「いえ、なんとなく頑張っている人が好きなんですよ。」

最近では「頑張る」という言葉自体にアレルギーのある人もいるし、経営者ですら「頑張るな」という人は珍しくない。

「結果が出ていなくても?」

「そうです。もちろん結果が出ていれば尚良しなんですけどね。」

「それは、裏を返せば、頑張らない人は嫌い、ということでしょうか?」

「いえいえ、私が頑張るのが苦手なんで、頑張れる人はすごいなあ、と純粋に思うわけです。」

彼は心底、そう言っているようだった。

 

「なんで頑張る人が好きなんですかね。」

「んー、なんででしょうかね。改めて言われると、難しいですね。」

「純粋に感覚的なものですかね」

「そうなんですが、……昔、恥ずかしながら「頑張る人」をちょっとけなしてたんですよ。」

「ほう」

「頑張っても、才能がなけりゃ結果は出ない。無駄なことをしているなと。頭が悪いから、頑張らなければいけなくなるんだと。」

「たしかに、ビジネスはそういう思考になりがちです」

「そうなんですよ、特に私が独立する前にいた会社はとにかく結果至上主義で。」

「そうなんですか」

頑張るのはアマチュア、結果を出すのがプロ、そう言われて育ちました」

「おお、確かに言いそうですね。わかります」

私も思い当たるフシがある。

 

「だったんですが……ちょっと考え方が変わることがありましてね。」

面白くなってきた。

「どんな話でしょう?」

「私の前の会社は結果至上主義だった、ともう言いましたよね。」

「はい、うかがいました。」

「実際、会社はそれでうまく行っていたんですよ。つまり、「頑張り」というのは結果を出すための過程に過ぎず、頑張らなければ頑張らないほど評価されました。」

「具体的には?」

「残業しない、休日出勤しない、有休は全て消化する。その上で結果を出す。どうやってそれをやるかに、かなり知恵を絞ったものです。」

「……めちゃめちゃいい会社じゃないですか。」

「そうですかね。でも、結果が出なかったらという恐怖はありますよ。」

「出ないとどうなるんですか?」

「単純に、減給もしくはクビです。」

「おお。」

「そりゃそうですよ。結果が出なかったら、会社にとってその人を雇うメリットはないですから。」

「それはそうですが。うまく行ってたんですよね。」

「途中までは。」

「……というと?」

「単純なことです。だんだん競合が増えて、結果が出ない人が増えました。」

「どうなりました?」

「どんどんクビになりましたよ。まあ、当時の社内の雰囲気は最悪でした。」

「ああ……。」

「ま、そんなもんです。だけど、ちょっと潮目が変わったことがありまして。」

「はあ。」

「一人、頑張り屋がいたんです。残業もする。休出もする。有休もとらない。まあ、評価は最低ですし、周りからは「出来ない奴」と呼ばれてましたよ。」

「なんか、気の毒ですね。」

「そいつは、まあ、長時間労働で結果を出すやつで、「普通の人の2倍働いて、ようやく普通の人並になれる」って良く言ってました。なんだかんだ言って、期末には数字を出すやつだったので、クビにはなりませんでした。が、評価は最低でしたね。

会社は「絶対に残業は禁止。休日も出勤するな」と言ってましたからね、完全に命令違反ですよ。彼は「これは仕事ではなく、プライベートです」っていって、働いてました。」

「なるほど」

「で、そいつは競合が増えて、労働時間もどんどん増えてました。逆に周りは無駄なことを一切やらず、効率よくやることを極めた奴しか残りませんでしたが。」

「ヤバいですね。」

「ところが、面白いことがありましてね。残業多かった彼が、大きな契約を取ってきたんですよ。今までとはちがう層の。」

「ほう。」

「要するに、新市場の開拓ですよね。彼は色々試していたらしいんですよ。失敗覚悟で。で、それが楽しくて、長時間労働していたと。」

「ああ、そういうことですか。」

「結果的に、会社は結構持ち直しました。そっちは競合が少なかったので。彼のおかげで。彼の頑張りが実を結んだわけですよ。」

「……。」

「要するにですね、「頑張るのはダメ」「絶対に長時間働くな」「効率が最も重要」という態度は、新しいことを生み出すのには向いていない。」

「……。」

「私は何となく彼を好きになってしまってね。多分それが理由なのかもしれません、それ以来、新しいことをやって頑張っている人を見ると、応援したくなるわけです。」

「そうだったんですか。」

「思うんですよ。「頑張っている」イコール「苦労している」ではない。頑張っている人は、楽しそうにしている。その楽しそうな人を見るのが、私は多分好きなんです。ま、自分ではそこまでできるか、と言われれば怪しいもんです。だから、余計に尊敬しますね。」

 

もちろん人にもよるが、「頑張り屋さん」の価値は、結果の良し悪しというよりもその態度にあるのかもしれない。

 

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