分断、階層化、格差社会の進行、どう呼んでも良いが、日本は既に「一億総中流」の社会とは異なってきている。

収入、教育を受ける機会、趣味嗜好や出かける場所に至るまで、「異なるコミュニティ」に所属している人々が受け取るものが大きく異なり、顔を合わせる機会も少なくなっていると感じる。

 

もちろん、これをどう受け止めるかは各人各様である。物事にはメリットとデメリットが同居しており、一概に良い悪いを決定できるようなことは少ない。

だが、影響は確実に社会の各所に及び、「日本人の同族意識」に少しずつ変化が起きている。

 

例えば先日、ある大きな会合の場で、こんな話をしている人がいた。

 

「この前、実家に帰って中学の時の同級生に会ったんだけど、考えていることが違いすぎて、全く話が噛み合わなかった。」

「わかる。」

「なんか、外国人と話しているような感じがした。」

「いや、それを言うならむしろ職場の外国人のほうが、共有してるものが多いから遥かに分かり合えそうな気がする。」

「本当?」

 

一人がその場にいた外国人に向かって、質問する。

「今の話、どう思う?」

「そう思うよ。私も自国に帰ると、同じようなことを感じる。」

「やっぱり。」

「旅行者みたいな初対面の人でも、職業が同じならかなり話が盛り上がるよね。」

思い当たるフシがある人が、数多くいるようだ。

 

「多分、グローバル化って、そういうことなんじゃないかな。自国への愛着っていうか、国の枠組みへのこだわりってあまりなくなってきて、「別に住む国なんてこだわりないから」って言う感じ。」

「そうかもね。日本は住みやすいとは思うけど、僕なんかも別に条件さえ良ければどこでもいいんだよね。」

 

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当たり前の動きとして、外国人の採用を進める製造業、web系企業はますます増えている。

パナソニック、ユニクロは8割……急増する外国人採用数(プレジデント・オンライン)

日本企業の外国人採用数が増えている。外国人を多く採用する企業の狙いはどこにあるのか。

パナソニックは2011年度の新卒採用のうち約8割、1100人程度が外国人だ。10年度の新卒採用の外国人比率は6割と、年々外国人の比率が増えているが、急に増やしたわけではない、という。

「最近、当社の外国人採用数が注目されることが多いですが、昔から採用の過半数は外国人です。ただ今後、新興国への展開にさらに力を入れていくことは間違いない。ですから今後も現地外国人の採用数は増加していくと思います」

もちろん、日本企業が外国人をうまく使えず「日本型」にこだわるあまり、優秀な外国人を採用することができない、というという問題も随所にある。だが、これも時間の問題だろう。

あるweb系のスタートアップ企業の経営者は、「webに国境はありませんから。日本人を特別視して雇う理由は、そこまでないですよ。」と言っていた。

 

 

最近では「民泊」の増加もあり、外国人旅行者は増え続けている一方で、職場にも普通に外国人がいるようになり、海外で働く人も増えている。

そういう状況下で「グローバル化」の前線に居る方々は、「日本人である」という事を意識してはいるが、こだわりは少ない。

 

彼らにとって「同胞」は、別のコミュニティに所属している日本人ではなく、「一緒に職場で働く人々」であり「価値観の似ている人々」である。

そして「彼らとは価値観の異なる日本人」の存在はますます遠くなる。

 

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現在我々が考えている「国」の原型はヨーロッパが生み出した「国民国家」と言われるものだ。

17世紀、戦争につかれたヨーロッパの国々が、「ウエストファリア条約」によって、相互の領土を尊重し、内政干渉をやめようと約束したことにより生まれた。

ただ、日本は言語や民族が単一に近いこともあり、ヨーロッパの人々と異なり「条約」などを経ることなく、近代以降は自然に「日本人である」という同胞意識を自然に持てたのではないだろうか。

 

だが、そういった時代ももしかしたら終りを迎えるのかもしれない。

少子化や年金問題、福祉や医療など、国民的な合意を得るのが極めて難しい問題が山積する現在、グローバルに生きることのできる人間たちは、ローカルでしか生きることのできない人間の生活を想像することができるのだろうか。

 

何時の世も、国の崩壊は「税」と「格差」にまつわることから始まる。

すでに「国」という枠組みはかなり弱体化しており、日本に愛着を持たず「自分が感じる同胞」に仲間意識を感じる人物たちは、「日本人である」というだけで、彼らに手を差し伸べよう、とは思わない公算が高い。

 

 

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(marcokalmann)