ちょっとした話だったのだが、個人的に面白かったので紹介する。

 

先月、一緒に飲んだ知人が、こんなことを言っていた。

「人の失敗を予言するヤツって、マジ無能だよな。」

「何の話?」

「いや、新規事業とか、新商品とかさ。「あれは失敗する」ってドヤ顔でいうヤツいるじゃない。」

「いる。昨日も見た。「あれはうまく行きませんよ」って言う人たちでしょう?」

「そうだよ〜もちろん。」

「なんで?」

「当たり前のことを言って、人の気分を悪くさせるだけだから。」

彼は少し酔っていたので、饒舌だった。

 

私は聞いた。

「未来の予言はするなってこと?」

「まあ聞けよ。おれは予言しちゃいけないなんて、一言も言ってない。」

「じゃあ何?」

「失敗を予言するのは、スッゲー簡単、ってこと。」

「もっと、具体例を教えてくれない?」

「例えば、Apple Watchの失敗を予言したやつ。「これは売れない」とか行ってた評論家。信頼出来ない。」

「……何で?」

「とりあえず、新製品が出たら「これは売れない」ってゴタクを並べて言っときゃいいんだよ。」

「……ああ、そういうことか。」

「やっと分かった?そういうことだ。」

 

つまり、彼が言いたかったのはこういうことだ。

新しい試みは、基本的に失敗する可能性のほうが遥かに高い。だから「新しい試み」に対しては「これは失敗する」って言っておけば、大体その予言は当たる。

 

彼は皮肉たっぷりに言う。

「難しい顔をして、失敗例を持ってきて、「むー、これは売れませんな」って言っときゃ、これで9割は当たるね。評論家って、そういう職業だろ?」

「まあ、そうじゃない人もいるかもしれないけど……。」

「ああ?そんな奴見たことねえよ。」

 

まあまあ、と、私は彼をなだめる。

「だから、おれは「失敗」しか予言しないヤツは、絶対信用しない。オレでもできるからな。聞きたいのは「これはうまくいく」っていう予想と、その理由だよ。」

「当てられる人っているの?」

「いや、当たらないだろ。普通。」

「ダメじゃん。」

「アナリストや評論家の予言が当たったかどうか調査したら、殆どはでたらめだった、っていう話、あったよな?*1予言なんて、当たらないんだよ。それでも予言するのは、強い思い入れがあるか、金をもらってるかどっちかだな。」

「……なるほど。」

「いるんだよ、4Kテレビはうまくいかない、IoTはうまく行かない。うまくいかないことだけ予言するやつ。だから、そういう奴がいたら、今度聞いてみな。「何がうまくいくんですか?」って。まあ、当たらないと思うけど。」

「なるほどw」

彼は話したいだけ話すと、酔いつぶれて、寝てしまった。

 

 

そういえば、「未来は予測できない」とピーター・ドラッカーは言っていた。我々ができるのは「すでに起きていることを発見すること」だけなのだと。

「失敗するよ」という外野を気にする必要はない。「そんなの知ってるよ」と返すだけでいいのだ。

 

 

*1 彼が述べているのは、ペンシルバニア大学の心理学教授フィリップ・テトロックの研究

「専門家による政治予測はどれだけ的中するか?」だ。

この研究は政治動向に関する評論と助言で生計を立てている評論家284名にインタビューし、幾つかの出来事に関する予測をしてもらうものだった。

結果は惨憺たるもので、それで食べている評論家たちは、得意分野とするものでさえ、専門外の人を大幅に上回る成績はあげられなかった。

(参考文献)

 

 

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・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


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(2025/6/2更新)

 

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