お会いした起業家の方が起業の動機を語ってくれた。
普遍性のある話だと感じた。
「何故起業なさったのですか?」
「話すと長いので、どこから話したらいいでしょうかね……。そうですね、私の父が倒れた時のことからですかね。」
「お父上ですか。」
「父です。体調が悪いって言って、病院で検査したら末期がんだったんです。八方手を尽くしたんですが、半年くらいで亡くなってしまって。」
「それは、ご愁傷様です。」
「まあ、酒もタバコもバカスカやってた父なので、長生きはしないだろうとは思ってましたけど、まさかあんなに早く逝くなんて想像もしませんでした。」
「そうですか。」
「で、そん時思ったんです。「人間て、あっさり死ぬんだな」って。恥ずかしながら、私その時まで人が死ぬっていう実感を持ったことがなくて。もちろん祖父や祖母の葬式には出ましたけど、それはなんというか、当然のこととして受け止めてたんです。」
「はい。」
「でも、父はちょっとちがってました。ピンピンしてたんですよ。ちょっと風邪じゃないのか、みたいに気軽に病院行ったら、それから半年なんて、ショックでした。人生観が変わるって、こういうことだなと。」
彼は少し考え込んでいたが、口を開いた。
「で、思ったんですよ。誰もが思うかもしれませんが、「いつ自分もそうなるかわからない」って。どうですか?」
「そうかもしれません。」
「当時、父の葬儀を終えて、暫くして仕事に戻った時、仕事をしていても全く現実感がなくてね。なんかふわふわしてるんですよ。」
「……。」
「人の生死に比べたら、自分の今やっていることってなんか虚しいなと。どこかから「こんなことやってていいのか」って声が聞こえてくるんですよ。
自慢じゃないですけど、私会社では結構成績良い方で、それなりの報酬をもらって、評価もされていました。でも、仮に半年後死ぬっていわれたら、こんなことに時間を使うかって言うと、絶対にそれはなかった。」
彼は目をつぶった。昔を思い出しているようだ。
「カネも地位も、社会的な評価も、私にとっては半年後死ぬとしたら要らないものだったんです。今のまま生きてても意味が無い、と思いました。」
「でも、それまで頑張って得たものでは?」
「どんなものも、墓にはもっていけませんよ。」
「それはそうです。」
「それから考えました。人生で大事なものってなんなのか。何を大切にしなければならないか。」
「……。」
「いつか死んで、何もかも失うのに、なぜ頑張るのか、と考えました。」
「はい。」
「すると意味があるのは、「今」だけなんですよ。「今」を必死に生きているかどうか。人生って、「今」の積み重ねなんです。」
「……。」
「「今」が全力でなければ、老後のため、20年後のため、なんて言葉、何の意味もありません。私は老後のために生きているのではないんです。それで、考えました。」
「何をですか?」
「必死になれることは何か、ということです。ですから、起業ははじめから目的にしていたわけではないのです。やりたいことを突き詰めていった結果、起業せざるを得ない、って言うイメージですかね。」
「会社員でいたら、できなかったのでしょうか?」
「毎日、あれだけの時間を拘束されると、私のやりたいことはできません。繰り返しますが、私は老後のために生きるのはやめる、と誓いました。」
「起業なさって、どうですか?」
「いつ食えなくなるかわからない、という状況がむしろ「生きている」という実感を高めていると思いました。今は毎日「生きている」という実感が強くあります。」
「成功のイメージはありますか?」
「私にとっては、すでに成功なんですよ。「今を必死に生きている」という実感が得られていますから。」
起業の動機は人様々だ。
だが、彼のような動機で起業する方も少なくないのだろう。「今を生きたい」という言葉が重かった。
(2026/10/26更新)
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