仕事柄、「自己責任」を強調する組織によく遭遇した。そう言った組織のマネジャーは大抵、
「伸びる奴は他人のせいにしない」
「仕事は量をこなせば、質に転換する」
「考える前に動け」
といった教条的なことを呪文のように繰り返していたものだ。
しかし、ほとんどの場合そう言った組織の労働条件は極めて悪く、また「皆が頑張れば頑張るほど仕事が辛くなっていく」という負のスパイラルに落ち込んでいた。
私はそう言った会社の社員からいつも、
「私が頑張れないのが悪いんですよね」
「成果を出せていないので、とてもマネジャーに申し訳ないです」
「もっともっと頑張れば、別の世界が見えますよね」
といった話を聞いていた。
そして、私にとってはそれがいつも疑問だった。
——————–
努力すること、苦労することは紛れもなく大事なことである。
が、それは個人の内面的な話にとどめておいたほうが良い。むしろ、人に強要してはならないし、賞賛するにしても、個人として賞賛するに留めるべきだ。
逆に、組織が「苦労」や「一生懸命努力すること」を美化しているのであれば、それは「危険な組織」と言っても良いくらいである。
「1984年」などの著作で世界的有名な作家であり、ジャーナリストであるジョージ・オーウェルは「動物農場」という寓話小説を残している。
人間の農場主が動物たちの利益を搾取していることに気づいた「荘園牧場」の動物たちが、偶発的に起こった革命で人間を追い出し、「豚」の指導の下で「動物主義」に基づく「動物農場」をつくりあげる。
動物たちの仲間社会で安定を得た彼らであったが、不和や争いが絶えず、最後は理解できない混乱と恐怖に陥っていく。結果的に支配者が入れ替わっただけで、人間が支配していた時以上に抑圧的で過酷な農場となる。(動物農場:Wikipedia)
この小説は恐怖政治を批判した作品であるが、私が最も興味深いと感じたのは、組織の中で、自己責任で誠実な努力を行う人物が、逆に皆を苦しめる結果になっている点である。
登場人物の一人に「ボクサー」という馬がいる。
彼は、朝、他の連中より三十分早く起こしてもらうように、若いおんどりの誰かと打ち合わせをしておき、いつも、正規の仕事がまだ始まらないうちから、何かによらず一番困っている仕事に、進んで力を貸してやるのだった。
どんな難問題にぶつかった時でも、どんな障害に出くわした時でも、「わしがもっと働けばよいのだ!」というのが、彼の口癖だった。
これが美談に見えたら危険だ。
単純に言えば、彼がよく働くことで、独裁者のマネジメントの稚拙さがカバーされてしまい、組織の構成員はますます過酷な努力をしなければならない状況に追い込まれていくからだ。
これは、独裁的なマネジメントの存在する企業においてよく見られる。
そう言った企業ではサービスの質や、ビジネスモデルなどの組織の根源的な問題が放置され、「意欲」や「理念」というものを盾に、経営者が従業員を鞭打つのみ、というマネジメントに堕落しがちだ。
MITスローン経営大学院のピーター・M・センゲは著書「学習する組織」においてこの現象を「相殺フィードバック」と呼ぶ。
多くの企業が、自社製品が突然に市場での魅力を失い始めるとき、相殺フィードバックを経験する。企業はより積極的な売り込みを推し進める―それが今までいつもうまく言っていたやり方だ。宣伝費を増やし、価格を下げるのである。
こう言った方法によって、一時的には顧客が戻ってくるかもしれないが、同時に会社からお金が流れ出ていくので、会社はそれを補うために経費を切り詰め、サービスの質(例えば、納期の早さや検査の丁寧さ)が低下し始める。
長期的には、会社が熱心に売り込めば売り込むほど、より多くの顧客を失うことになるのだ。
私が見た現象は、サービスの質を改善せず、全員を「テレアポ」と「飛び込み」などの労働集約的な仕事に邁進させる、というやり方だったが、上と全く結果は同じであった。顧客は流出し、人材は会社を辞め、競合にシェアを奪われたのだ。
悪いのは「私」と決めつけてはいけない。悪いのは「経営者だ」と決めつけるのもダメだ。
うまく行っていない本当の原因を徹底的に、客観的に直視し全体を俯瞰すること。つまり「頭を使え」ということである。
頭を使わない組織に堕ちた時、会社は崩壊を始める。
(2025/5/8更新)
人手不足 × 業務の属人化 × 非効率──生成AIとDXでどう解決する?
今回は、バックオフィスDXのプロ「TOKIUM」と、生成AIの実務活用支援に特化した「ワークワンダース」が共催。
“現場で本当に使える”AI活用と業務改革の要点を、実例ベースで徹底解説します。
営業・マーケ・経理まで、幅広い領域に役立つ60分。ぜひご参加ください!
こんな方におすすめ
・人材不足や業務効率に悩んでいる経営層・事業責任者
・生成AIやDXに関心はあるが、導入の進め方が分からない方
・属人化から脱却し、再現性のある業務構造を作りたい方
<2025年5月16日実施予定>
人手不足は怖くない。AIもDXも、生産性向上のカギは「ワークフローの整理」にあり
現場のAI・DX導入がうまくいかないのは、ワークフローの“ほつれ”が原因かもしれません。成功のカギを事例とともに解説します。
【内容】
◯ 株式会社TOKIUMより(登壇者:取締役 松原亮 氏)
・AI活用が進まないバックオフィスの実態
・AIだけでは解決できない業務とは?
・AI活用の成否を分ける業務構造の見直し
・“人に任せる”から“AI×エージェントに任せる”時代へ
・生産性向上を実現した事例紹介
◯ ワークワンダース株式会社より(登壇者:代表取締役CEO 安達裕哉 氏)
・生成AI活用の実態
・「いま」AIの利用に対してどう向き合うか
・生成AIに可能な業務の種類と自動化の可能性
・導入における選択肢と、導入後のワークフロー像
登壇者紹介:
松原 亮 氏(株式会社TOKIUM 取締役)
東京大学経済学部卒業後、ドイツ証券に入社し投資銀行業務に従事。
2020年に株式会社TOKIUMに参画し、当時新規事業だった請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」の立ち上げを担当。
2021年にはビジネス本部長、2022年より取締役に就任し、経費精算・請求書処理といったバックオフィスDX領域を牽引。
業務効率化・ペーパーレス化の分野で多くの企業の課題解決に携わってきた実績を持つ。
安達 裕哉 氏(ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO)
Deloitteで大手企業向けの業務改善コンサルティングに従事した後、監査法人トーマツにて中小企業向け支援部門を立ち上げ、
大阪・東京両支社で支社長を歴任。2013年にティネクト株式会社を設立し、ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年には生成AIに特化した新会社「ワークワンダース株式会社」を設立。生成AI導入支援・生成AI活用研修・AIメディア制作などを展開。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計71万部を突破し、2023年・2024年と2年連続でビジネス書年間1位(トーハン/日販調べ)を記録。
日時:
2025/5/16(金) 15:00-16:00
参加費:無料 定員:50名
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
こちらウェビナーお申込みページをご覧ください
・安達裕哉Facebookアカウント (安達の最新記事をフォローできます)
・編集部がつぶやくBooks&AppsTwitterアカウント
・最新記事をチェックできるBooks&Appsフェイスブックページ
・ブログが本になりました。