ゴシップと固有名詞の関係について書きたい。

 

今年も多くの芸能ニュースが世間を騒がせた。騒ぐことは楽しいが、あまりに続けば、うんざりもする。

そんなとき、人はふと冷静になり、不思議に思いはじめる。どうしてこんなにもゴシップに反応してしまうんだろう?

「ベッキー不倫」や「SMAP解散」という見出しを目にしたときの「おおおお!」という反応はなんなんだろう? みんな何に反応しているんだろう?

 

ゴシップは固有名詞の力に依存している。

コンビニで女性セブンやフライデーの表紙を見たとき、私は「固有名詞だらけだな」と感じる。

読者の気を引くために大量の文字が書かれているが、その大半は固有名詞なのだ。有名人の名前や、大企業の名前。

これが大量に登場している。ゴシップの魔力を支えるのは固有名詞なのだ。

 

なので私は、ゴシップの見出しをすべて「人間」に変える遊びをしている。

固有名詞を取り除いてみるのである。この遊びをキッカケに固有名詞の不思議を体験できる。

有名人の名前を「人間」に変えてしまうと、そこに何ひとつ「そそる要素」がなくなるからだ。

 

「ベッキー不倫」と「SMAP解散」で考えてみたい。

まずは「ベッキー不倫」だが、ここで「ベッキー」を「人間」に変えてみるということである。同じく「川谷絵音」も「人間」に変えてみよう。

するとこれは、人間と人間の不倫である。雑誌の見出しを作るならば次のようになるだろう。

 

人間、人間と不倫!!!

 

この見出しの「引きのなさ」を体験するのが面白いということだ。この見出しでは週刊誌は絶対に売れない。「ベッキー不倫」にあった魔力は完全に失なわれている。

次に「SMAP解散」で考えてみよう。「SMAP」という固有名詞を「男性五人組」に変えてみると、見出しはこうなる。

 

男性五人組、解散

 

やはり、何の引きもない。「飲み会でも終わったのかな?」としか思わない。男性五人組の解散は金曜夜の駅前に行けばいくらでも見られる光景だからだ。居酒屋で楽しく飲んだ男性五人組は駅前で解散し、それぞれの家に帰ることだろう。

ちなみに、男性五人組のメンバーは、人間、人間、人間、人間、人間である。

 

ゴシップが固有名詞に依存できない場合、肩書に依存することもある。

あまり知名度のないタレントが事件を起こした場合、ニュースの見出しでは「男性タレントが」や「女性アイドルが」と表記され、実際の名前は記事を読まなければ分からない。

「男性タレント暴行事件」のような見出しに釣られて記事を読み、まったく知らないタレントだった経験をしたことがある人は多いはずだ。

これは、そのタレントの固有名詞の力よりも「男性タレント」という言葉の引きのほうが強いと判断されたんだろう。「教師が」「医者が」「東大生が」というのも、その肩書に「引き」があると判断された結果だと思われる。

 

「固有名詞をでっちあげる遊び」もある

適当にでっちあげた固有名詞に変えてみる遊びもある。

 

嵐山のり子!!! 須磨みのると不倫!!!!!

 

これに「誰やねん」以外の感想を抱くのはむずかしい。「誰やねん」の状態では、文末のビックリマークもむなしく空を切る。そんなに興奮されても、われわれは二人の存在を知らない。

ちなみに、嵐山のり子の旦那は遠目塚英雄、須磨みのるの妻は二階堂智恵子であり、遠目塚英雄と須磨みのるは過去に共演経験もあるところが興奮のポイントなんだが、みなさん全然ピンとこないと思う。

ぜんぶ私のでっちあげだから。

 

「あのベッキーが!!!」という表現が成立するのは、「ベッキー」という固有名詞が多くの日本人の頭に根付いているからだ。「あの嵐山のり子が!!!」にキョトンとしてしまうのは、この固有名詞は誰の頭にも根付いていないからなのだ。

 

MOSSA解散!!!

 

これも「は?」だと思う。

MOSSA(モッサ)というのは1991年にデビューした男性アイドルグループで、メンバーは皆川龍太郎、小倉ゆうや、冴島誠、讃岐ひで彦、あんどう泰三の五人であり、これまでに41枚のシングルと15枚のアルバムを発表、代表曲は「海に行こうよ」「無敵の女」「ホバリング★ボーイ」等なんだが、みなさん一切知らないと思う。私のでっちあげだから。私が5分で考えた架空のアイドルグループに過ぎないから。

モッサのファンは地球上に一人もいない。だからモッサが解散しても誰も衝撃を受けない。でっちあげた私ですらモッサのことをどうでもいいと思っている。モッサは心底どうでもいい。そこにゴシップの魔力など宿るはずもない。

 

ゴシップとは「巨大な内輪ネタ」である

私は個々のゴシップよりも、ゴシップと固有名詞の関係に興味がある。ゴシップがどのように人の心を刺激しているのか、その法則に興味がある。

そして固有名詞を「人間」に変えてみたり、架空のものに変えてみることは、それを知る手掛かりになる。

ゴシップというのは要するに「内輪ネタ」である。固有名詞を共有していない人には面白くもなんともない。しかし内輪の範囲が「日本人のほとんど全員」だから、なかなか内輪だと実感されにくいんだろう。

みなさんもぜひ、週刊誌の表紙を眺めながら、登場する固有名詞をすべて「人間」に変えてみてほしい。魔力が消失する瞬間を体験できるはずだ。

それではまた次回。

 

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著者名:上田 啓太

1984年生 京都在住 居候&執筆業

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