もしあなたが日本で育った27歳~35歳の女性なら『美少女戦士セーラームーン』の影響を受けたはずだ。そう断言できるほど作品の影響は強かった。
子供にとっては人気キャラクターでごっこ遊びをするのも自然な流れ。当時はそこかしこでセーラームーンごっこを見ることができた。
そこで問題になるのは「誰がセーラームーンを演じるか」である。観ていない方は驚くと思うが、実は主要なセーラー戦士だけでも19人いる。主人公のセーラームーンは誰もが認める子でなければなれなかった。
セーラームーン「ごっこ」はリア充の物語
セーラームーンは「リア充」に対するあこがれの物語でもあった。
特に初期の登場人物はセーラームーン以外、頭が良くて近寄りがたい、霊感があって怖いといった理由で同年代から煙たがられている設定である。家庭と学校しか世界のないほとんどの中学生にとって、クラスから孤立するのは社会的な死に等しいだろう。
対して主人公のセーラームーンだけは初期から友人に囲まれている、いわば「リア充」である。にも関わらず彼女は周囲の評判を気にも留めないまま他戦士の懐へ飛び込み、友達になってくれた。
だから他の戦士はセーラームーンだけ男にモテモテでも嫉妬せず応援し、たとえ主人公より戦闘力が強くても「セーラームーン、今よっ!」と成果を譲るのである。
だからセーラームーンごっこにおいても、主人公を演じられる人間はリア充でなければならなかった。だが現実と作品の悲しいギャップがそこに生まれる。
「ごっこ」のセーラームーンを演じる女子は、自分が敵を倒す役をやりたいだけの平凡なリア充。慈悲深い作品のセーラームーンのように、他のセーラー戦士を救いはしない。だからごっこ遊びで「愛されない女子」は疎外されたままになる。
セーラームーンは「男性から守られなくてもいい」女性の第一段階
セーラームーンはリア・非リア間の救いと友情物語であった一方で、「男性に守られる女性」からも解き放たれた第一歩であった。
主人公には恋人がいるがサポート的役割をこなすことがほとんどで、時には洗脳されたり人質となったりと足手まといな存在だ。かつて「姫」がこなすべき役割だった人質的役割を、恋人役のタキシード仮面が担っている。
だがその半面で、セーラームーンは「男性に愛され、守られているからこそ全力で戦えるヒロイン」でもあった。
地球の王子に愛され、敵の親玉を虜にし、さらに助けを求めた遠方の使者にまで惚れられる。プリキュアのように肉弾戦でもなく、祈りの力で勝つ。「女が勝ったら男に愛されなくなる」という呪詛から逃れようと生まれた作品、それでも解呪しきっていないのがセーラームーンのように私からは見える。
その意識を読み取ったかのように、ドラマ『問題のあるレストラン』でもこんなセリフが出てくる。※
「幼稚園の時に、セーラームーンっていうアニメがありました。園庭でよくその”ごっこ”をしてたんですけど、みんなは大体セーラームーンとか、セーラーマーキュリーとかを選んで、私はいつも最後まで残ったセーラージュピターで、セーラージュピターのイメージは緑でした。
色には順番があったんです。女の子が、赤とか、ピンクとか色分けされたものを分ける時、私はいつも緑を選ぶ係でした。選ぶっていうか、選んだフリで緑を取るんです。
他の娘が、ファッションとか恋とか選ぶ時、私は勉強を選びました。好きじゃなかったけど残ってたから勉強を選びました。会社に入って、やりたいことを頑張ろうって思ってたら、同期の子が言いました。
『男は勝てば女に愛されるけど、女が勝ったら男に愛されなくなる。女は、勝ち負けとか放棄して、男に選ばれて初めて勝利するんだ』
あれ!?じゃあ私、一生勝てないじゃんて思いました。」
こうしてみると、セーラームーンは友情や愛情のあり方で「一歩先」を目指しながらも、現実のごっこ遊びが追いついていなかったように思う。
仲間外れの女子はそのままセーラームーン役を諦め、タキシード仮面のような男子に愛される女子を目で追いながら「愛されなければ意味がないのか」と学んでしまう。
愛されるために仕事をするのではなく仕事を主体的に愛し、取り組む
現在、アラサーとなった私たちはセーラームーンが敵と戦うように仕事と戦っている。だが価値観はあれから更新されただろうか。
「勝ち負けとか放棄して、男に選ばれて初めて勝利するんだ」
と、セーラームーンごっこ、いやそれ以前の世界観を引っ張る女性もいる。
当時、女性が戦闘するだけで十分先進的だったセーラームーン。だが、今の社会はさらなる年下世代のものだ。真正面から敵と取っ組み合い、倒して成長していく。「タキシード仮面様はまだ来ないのか!」と舌打ちしても、後ろから成長してきた後輩に追い抜かれるだけである。
愛されるために仕事をする必要はない。セーラームーンを目指す必要もない。女性も強く戦える。主体的に取り組んで倒した仕事こそ、あなたをレベルアップさせるのだ。一億層活躍社会というお題目で戦いやすくなった今だからこそ、仕事に真っ向から取り組む快感を味わってほしい。
※セリフは一部抜粋したものです。全文掲載記事はこちら。
「私は緑」問題のあるレストラン 第4話
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