私が出会ってきた良いマネジャーは、殆どの人が
「もっとヤル気出せよ」
「成長しないとダメだぞ」
といった「説教」をしなかった人ばかりだ。
説教自体が悪いのではない。
だが、おそらく皆、説教にほとんど意味がないことを知っていたのではないかと思う。
例えばあるwebサービス運営会社のマネジャーは、「説教したって、人は変わらないですよ。」と言った。
またある商社のマネジャーは「こちらが言っただけで考え方を変える人なんて、見たことないです」と言った。
コンサルティング会社の30歳そこそこのマネジャーは「説教でなんとかしようっていうのは、要するに手抜きか頭が悪いだけですよ。」と言った。
彼ら有能なマネジャーは説教をしない。
ではどうやって人に対して影響を与えるのか。行動と考え方を示すのか。
実は彼らは皆、部下に「ツール」を与えていた。しかも単に与えるだけではない。部下が進んで使いたくなるように工夫をこらしていた。
例えば上記の商社のマネジャーは、「チャットサービスを使った営業日報」をうまく導入していた。
普通であれば日報など、ダルくて書いてられない、とするひとが多いだろうが、そのマネジャーは違っていた。
「どうせやるなら、役に立つように」というのが彼の口癖だ。
彼は部下にチャットサービスのアカウントを与え、
「その日1日、どんな仕事をしたのか、箇条書きで提出するように。」と言った。具体的には、・A社訪問し◯◯の商談 と言った具合だ。
部下たちは、「何でこんなことを……」と思ったが、とりあえずスマホやメールから日報提出ができるので、5分もかからない。それならば、ということで彼らはひとまずそれを遂行した。
それを続けた結果、部下たちは、1日の終りに、今日やったことを細かに思い出すようになった。
1ヶ月が過ぎ、皆がそれに慣れてきたころ、マネジャーは
「やったことに加えて、それにかけた時間を記入すること」という指示をした。例えば ・A社訪問し◯◯の商談、1時間 と言った具合だ。
こちらも特に反対はなく、箇条書きに+α程度だということで、皆も受け入れた。
すると部下たちは、時間を計算することで、どの仕事にどれくらいの時間を欠けているかを知り、徐々に仕事の時間配分を気にするようになった。
更に1ヶ月が過ぎ、皆が「当たり前のこと」として、今日の仕事の一覧と時間配分を気にするようになった時、マネジャーは次の指示を出した。
「その行動一つ一つに期待する成果を具体的に書け」
例えば、A社訪問し◯◯の商談、1時間 に対して、期待する成果は、来月までの受注を目指す、と言った具合だ。
すると、一人の部下から質問が出た。
「日報記入という仕事に対しての、期待する成果って、何ですか?」
マネジャーは「何だと思う?」と聞く。
部下は「……マネジャーが我々の管理をするためですか?」
だがマネジャーは首をふる。「違うよ。」
「自分で仕事の振り返りをするためですか?」
「当たり。もともと日報ってそういうものでしょう。」
すると部下たちは、自ら、自分の仕事の成果を気にするようになった。
また1ヶ月が過ぎた。徐々に皆がセルフマネジメントによってできるようになってきた時、マネジャーは次の指示を出した。
「書きだした仕事が、期待通りいっているかどうかを書け」
例えば、A社訪問し◯◯の商談、1時間、来月までの受注を目指す、今までの所期待通りに進んでいるが、リスクは**…だ、
と言った具合である。
これらは人によっては結構なボリュームを書かなくてはならないので、抵抗があるかとマネジャーも想像したが、実際にはほとんど抵抗はなく、皆「まあ、当たり前ですよね」と言い、ほとんどの人物がほぼ完璧に予実対比をするようになった。
これにより、全員が過去の活動の振り返りをするようになった。
まとめると、彼のチームは全員が
・1日に何をしたかを把握している
・仕事の時間配分を気にする
・自分の出すべき成果を知り、それに向かって進む
・過去の施策の振り返りを全員が行う。
をすべて遂行するようになった。しかもマネジャーたる彼は1回も説教することなく。
———————–
著名な建築家であり、デザイナーであり、「宇宙船地球号」という言葉を発明したことでもよく知られるバックミンスター・フラーは、
「人の考えを変えることはできないが、それを使うことでこれまでとは違う考え方に導くツールを与えることはできる」と述べたという。*1
印刷物、鉄道、テレビ、PC、スマートフォンなどがすべて「偉大な発明」と呼ばれるのは、思想を押し付けること無く、もちろん説教などを一切すること無く、人の行動を大きく変えたからである。
マネジャーは説教など不要である。
ツールと、適切な指針さえ与えれば、自ずと部下は行動を変えるのだ。
*1
(2026/6/2更新)
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