「ロウソクの問題」と言われる、有名な実験がある。カール・ドゥンカーという行動科学の学者が1945年に行った実験だ。有名な実験なのでご存じの方もいるかもしれない。
被験者に部屋に入ってもらい、上の画像のような道具を与える。そして、お題をだす。
「ロウソクに火を付けて、なおかつロウソクの蝋が机に垂れないように、壁にロウソクを取り付けてください」というものだ。
ちょっと頭を捻らないといけない、創造性が問われる問だが、カール・ドゥンカーは、被験者を2グループに分けた。
最初のグループには、「この種類の問を解決するまでの時間が知りたい」とだけ伝える。
他方のグループには、「解決が早かった上位25%の人には、5ドル出しましょう。1位の人には20ドル出しましょう。」と伝える。
どちらのグループが、解決するまでの時間が短かっただろうか?
驚くべき結果だが、結果は「3分半、報酬を提示されたグループのほうが余計に時間がかかった」という。
一般的な会社が行っているやり方では、「インセンティブ」や「報酬」を提示することにより、やる気を社員に出させる。苦労に報いるといった効果を期待する。
しかし、実験が示したのは、「報酬を提示すると、問題解決に余計時間がかかる」という事実だった。
この実験の結果は、一時的なものではなく、当時から40年以上も、再現性がある実験として有名なものである。
面白いのは、別のやり方で行った実験との対比だ。
カール・ドゥンカーは、下のように画鋲を予め箱の外に出した、「より簡単な問題」を与えて同じ実験をした。
結果は、「報酬を提示されたグループのほうが問題を早く解く」ということだった。
ここからわかることは、
問題が簡単であれば、報酬は十分な効果を発揮する。創造性が問われる問題では、報酬は機能しないばかりか、逆に害になる。
ルーティンワークは、報酬が十分に提示されることで能率を上げることができる。
しかし、問題解決を必要とする「知識労働」は、むしろ報酬が害になる。
「報酬は視野を狭め、目的に邁進させるが、よりよいやり方を工夫する力を落とす。」と言うのは、「事実」だ。
MITにおいて、似たような実験を行った時にも、「より大きな報酬を与えれば与えるほど、認識能力を必要とする複雑な問題を解く力は落ちる」ということが実証されている。
さらに、「インド」において、51の工場で行った実験も、全く同じ結果となった。「より大きな報酬は、全体のパフォーマンスを低下させた」
では、複雑な問題を解く力は何によってパフォーマンスを高められるのか。
TEDにおいて、このテーマで講演した、ダニエル・ピンクは、「自主性」、「成長」、「目的」と述べる。
科学で証明されたことと、ビジネスの現場では、まだまだ大きな食い違いがある。
Screenshot: captured by TED http://www.ted.com/talks/dan_pink_on_motivation.html
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

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・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)