雇用は不安定になり続けている。データを見ても、いわゆる「非正規雇用」は局所的な増減はありつつも、増加の傾向は止まる気配もない。
しかし、これは人類の長い歴史から見ればむしろ「安定した雇用がある時代」の方がレアケースなので、今までが特殊な時代であったと見てもいいだろう。
中世においては、現代で言う「サラリーマン」のような人々(奉公人)は、全体の2割程度であった。残りの人々は、自営、農民、漁師など、「自分の身は自分で守る」という人々だった。
飢饉が来れば餓えが農村を襲い、不漁の年は身売りが盛んになり、商売が立ちゆかなくなった人々は住む場所を追い出された。
これが変化したのは、産業革命による工業化の時代である。コンベアを用いた大量生産は、多くの人々の働くリズムを統一する必要があり、必然的に人口の移動、都市化、大衆社会、そして、自分自身の「労働力」を基に「給与」をもらうという、近代企業が登場する。
近代企業は大きな成功をおさめる。工業化によって生まれた巨大な製造業は勢力を拡大した。さらに20世紀に入っても製造業はその生産性を上昇させ続け、安定した収益を基板とし、多くの人々の雇用を支えたのである。
しかし、21世紀に入り、この傾向は終焉を迎える。
この変化は企業のせいではなかった。エネルギーの利用効率や、生産性の向上は相変わらず上昇しており、限界を迎えたわけではない。
では何が限界を迎えたのか。それは「消費」である。
工業化を成し遂げた先進国の購買力のある国民は、もはや「欲しいものがない」状態となった。結果として、「安定した消費」が失われたのである。
「消費」が安定しなければ、企業は安定した収益を出せない。
安定した消費に立脚していた企業は次々と業績を落とす。代わりに業績を伸ばしたのは、「新しい満足を創りだした企業」、すなわち、イノベーションを生み出した企業だけとなった。
安定した消費を前提としていた巨大製造業は、その収益を保つために次々と雇用を縮小し、現在に至る。
しかし、ここで問題となるのは、イノベーションを生み出すこと自体が、そもそも予想し得ない、という事実だ。
ジェームズ・W・ヤングが述べた、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ」との言葉どおり、「イノベーションを生み出すためには、内部の人々が絶えず入れ替わり、新しい組み合わせを作っていく必要がある」のである。
ある研究によれば、「ずっと同じ人と仕事をすると、創造性は時間とともに低下する」という。
従って、「安定した雇用」は企業業績に対して、徐々にマイナスに働くようになる。
雇用の不安定化は、企業がイノベーションに力を入れると必然的にもたらさせる副産物である。
したがって、これからの労働力は、「自分の知らない人、はじめて会った人と、いかにうまく仕事が出来るか」が求められる。
「会社」は徐々に「家族」のようなかたちから「プロジェクト」というかたちへ姿を変える。
そんな世界で、雇用が安定せずとも、「安心して働ける世界」を作っていくために、我々は何をすべきだろうか。
「政府」も「経営者」も、既にこの責任を負担できなくなっている。従って、働く人々がこれに対応する責任を引き受けなければならない。
そういった責任を引き受けられる人物を、世の中は大量に必要としている。
新しい世界に対応する力を「教育」によって生み出す事が、可能か。「教育産業」は次世代の成果を問われている。
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【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)