世の中には二種類の人間がいる。
人から聞いたり、読んだりした事をキチンと理解できる人とできない人だ。
筆者は一応医者である。医者と言っても、その頭のよさはピンからキリまである。東大・京大を始めとする日本最高学府を卒業するような人の中には、根本から頭脳構造が違うとしかいいようがない人が一定数存在している。
彼らの特徴は、簡単にいえば1を聞いて10を正しい形で理解できる事だ。本を1回読んだだけ、授業で1度聞いただけで、その概要を瞬く間に正しい形で理解する事ができる。
一方、筆者のような凡人タイプの人間は、10を聞いても1も理解できない。頭があまりよくないのかもしれないけど、それ以上に自分の手を動かして、実際に物事に自分で取り組んでみないと何がなんだかよくわからないのだ。
僕は学生時代は結構真面目に勉強した方だと思うけど、それでも現場に出た後に自分が正しく物事を理解していない事を知った事が何度も何度もあった。僕と同じような平均的な頭脳しか持ってない人間は、実際に手を動かしてやってみないと駄目なのだ。これは働く事についても同様の事がいえる。
大企業型研修医、ベンチャー企業型研修医
医学部を卒業した人間は、臨床研修を2年間受ける事が義務付けられている。凄く大雑把にいうと研修先は大学病院と市中病院の二種類がある。
大学病院はだいたい同期入社が40人程度と結構多い。働く人間も多いことから、研修医はドラクエのごとくゾロゾロと仲間連れで行動し、ドラクエのごとく配下の者はTOPの命令にただ従うのみである。自分で手足と頭を使って意思決定を行う場面は、正直言ってあまりない。
一方、市中病院は規模にもよるけども同期は10人程度と大学病院と比較すると少ない。働く医者の数も少なく、また大学病院に送るまでもない軽症患者も大量に訪れる事から、仕事量が多く研修医も大事な戦力の一人として、現場に駆り出される事が多い。
大学病院で研修生活を終えた人間は、研修終了時の実力が物凄く違う。TOP層は実際の現場での何でもできるようになってるし論文も読めるわと褒めるところ以外何もみつからないような存在になるのに対して、下層は酷いと学生と何も変わらないんじゃないかというぐらい何もできない。
これはTOP層が1を聞いて10を知れる超絶知能の持ち主だから最先端知識を耳学問で学べる大学病院がたまたまマッチしたのに対して、下層は手足を動かして実務を経験できないが故に、2年間の労働生活を経ても学生と変わらぬような理解しか身につかなかったのである。
一方、小規模な市中病院で研修生活を終えた人間は、大学病院と比較するとTOPと下層との間にそこまで実力に差が開きがでる事はあまりない。みんな平均して仕事が一律できるようになる(実力で言うと、大学病院の上の下ぐらいは身につくことが多い)普通に考えればTOPとそれ以外で実力に差がでそうなものだけど、意外とそうはならない。たぶん、2年間という短い期間では、自分で手足を動かして学べる仕事の範囲がそこまで広くはなく、だからみんなある程度実力が平均化するのだろう。
ときどき一般企業の就活でも、大企業がいいかベンチャーがいいかといったようなタイプの質問があるが、この問いはそのまま上の2つの経過が答えになっているんじゃないかと僕は思う。
1を聞いて10を知れるような超絶頭のいい人は、自分で意思決定があまりできない大企業だとか官僚型組織の中でも耳学問でバリバリ実力を身につける事ができるだろうからそういうところを職場に選んだとしても問題はないだろうけど、僕のようにとりあえず手を動かさないと駄目な人間は実務経験が積めそうな場所に身を置かないとどうしようもない駄目になっちゃうだろう。
実務経験をある程度つんだ先はどうするべきか
そしてここから書くことが今回の本題だ。これはあまり誰も教えてくれない事なのだけど、実務経験で身につけられる知識は仕事技能の中では基礎中の基礎であり、実はそれだけやってても全くそこから先へは成長できない。
僕は学生時代、マッキンゼーとかの一流外資系企業に務めている人が、どうして2年ぐらい働いたら外に出てしまうのかがずっと謎だった。もちろん解雇されたりだとか激務が嫌で外に飛び出した人間も多いとは思うのだけど、本質的にはああいう実務経験型の激務で人間が学べる事が実は2年もやれば十分すぎるほど十分だというのがその理由なんじゃないかと今では思う。手足だけで学べる範囲は、実はあまり広くないのだ。
実務経験により身についた仕事の基礎は、凡人が1を聞いて1を正しく知る事がやっとできるようになった最低限の基礎だ。だけどこの基礎をどんなに磨いた所で、1を聞いて10を知れるようにはならない。凡人は凡人であるが故に、1を聞いても1にしかならないのだ。
それだからこそ凡人は基礎を身に着けた後、技能開発方針を本格的に転向していく必要がある。専門書を読み専門知識を身に着け、身につけた基礎を元に転職活動を図り、より特殊な分野に特化した専門的な経験をつむといった手と足と”頭”を使った行動を続けていき、器用貧乏からの脱出を図らなくてはいけない。
何でもできる人は、ただの便利屋でしかない。それと比較すると、特定の事がメチャクチャできるスペシャリストは、その希少性故に物凄く重宝される。社長になるためには起業するとか出世競争を勝ち抜かないといけないけど、必要とされる代替不可能な専門家になら、それと比較すれば比較的簡単になれる。
手足を動かして仕事の基礎を身に着けた後に、頭を使って毎日毎日小さな1を積み重ねていく事ができる人が、揺るぎなき特別な専門家への道を歩めるのである。
あなたも是非、スペシャリストへの道を歩んで欲しい。
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