こんにちは。「株式会社わたしは」の竹之内です。弊社の業務は「大喜利をする人工知能の開発」、つまり人工知能をもって、人を笑わせることです。

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そのために必要な知識は、と言えばもちろん、人工知能についてのもの、そしてもう1つは「笑い」についてのものです。

今回は後者の「笑い」について、少し書いてみたいと思います。

 

実は、「どのような時に人が笑うのか」についての研究は昔からあり、大別すると人文科学的なアプローチと、自然科学的アプローチがあります。

 

前者については例えば、「リバイアサン」で有名なトマス・ホッブスがいます。彼は「笑い」について次のように言います。

笑いがこみ上げてくるのは、とっさの行動がうまくいって気を良くする場合、あるいは他人の中に不出来なところを見出して優越感に浸る場合である。*1

 

またノーベル文学賞を受賞した作家であり、哲学者でもあるアンリ・ベルクソンは、そのものズバリのタイトル「笑い」*2という著書の中で次のように述べています。

笑いとは、ある社会的な身振りなのであって、この身振りは人間や出来事にみられるある特殊な緊張の緩みを際立たせ、抑制するものなのだ。

*1

*2

 

「笑い」とは、考えれば考えるほど不思議な現象であるが故に、上述したような人文科学的なアプローチは古くから行われてきました。

 

 

しかし、近年では「笑い」に対するアプローチは変わってきています。

コンピュータによる自然言語処理技術の発達があり、あるいは神経科学的なアプローチが可能となったことから、自然科学的アプローチが盛んに行われるようになってきました。

 

例えば、Googleの開発した自然言語処理プログラムWord2Vecを用い、web上のビッグデータを対象とした、以下のような笑いの因子についての相関関係を分析した2015年の研究があります。

Humor Recognition and Humor Anchor Extraction Yang et al. EMNLP2015

訳:ユーモアのある文の判定とユーモアを表現している単語の抽出

 

この研究は、ユーモア文には「4つの因子」があるのではないかと仮定し、その検証を行っています。

①Incongruity Structure(不一致性)

人はギャップに笑う。

「A clean desk is a sign of a cluttered desk drawer.(机の上がキレイだということは、引き出しの中はゴチャゴチャだということだ。)」

 

②Ambiguity Theory(意味の掛かり)

同音異義語や言葉の関連で笑う。

「Did you hear about the guy whose whole leftside was cut off? He’s all right now.(体の左側がなくなってしまったあいつはどうなった? ああ、全く問題ないよ。)」

 

③Interpersonal Effect(相手に向けた表現・極性)

極端にポジティブであったり、毒舌のようにネガティブであると面白い。

「Your village called. They want their Idiot back.(village idiotは村一番のバカの意)」

 

④Phonetic Style(音韻、リズム)

ラップのように韻を踏むと面白い。

「What is the difference between a nicely dressed man on a tricycle and a poorly dressed man on a bicycle? A tire. (身なりの良い自転車に乗った男と、みすぼらしい三輪車に乗った男との違いは? タイヤだろ(attireは、衣装、という意味もある))」

 

彼らは複数のジョークサイトから抜き出したデータを用いて、この4つの因子は「ユーモアがある文章を取り出すのに有効」ということを証明しました。

 

しかし、本当にこれらの研究に意義があるのか、と問われれば、微妙であると言わざるを得ません。なぜならこの4つはMECEでもなく、かつ「この4つだけなのだろうか?」という疑問にも答えていないからです。

しかも、致命的なことに、論文では最後の注記で「ただし下ネタは扱えなかった。」と書いているのです。

 

一方で、世界中の笑いについて研究しているピーター・マグロウ氏らの研究*3では、
「世界でひとつになって爆笑できる、万国共通のユーモア。それはすごくシンプルだ。ラブ、ピース、そして下ネタ。」と結論付けています。

*3

 

笑いとは「下ネタ」である、と言うのは身も蓋もないオチですが、結局、データを解析しても、「笑い」の本質はわからず、表層的なところの分析に終止してしまいがちになるのです。

 

 

もはや伝説と言われる落語家の桂枝雀師匠は、笑いとは、突き詰めて言うと「緊張と緩和」と述べました。

枝雀師匠がその人生を賭して挑んだ笑いの研究。それはまだまだ若輩の私どもが及びもしない深淵です。

 

「大喜利する人工知能」の開発を通して、その一端をほんの少しでも覗いてみたい。そんな欲求に突き動かされて、日々の開発を進めています。