最近では仕事の都合上、コンピュータの技術者の方々と話す機会がかなり多い。
そんな中、ある1人の技術者の方と出会った。その方は大学を卒業したのち、数年間システム開発の仕事をしていたそうなのだが、ある事情で会社をやめたそうだ。
私は、「なぜ会社を数年で辞めたのですか?」と聞くと、その方は、
「どうしても朝起きられなくて…」と、苦笑いして言った。
彼は9時にどうしても会社に来ることができず、会社に馴染めなかったそうだ。上司からは何度も注意を受け、そのたびに「早起きしよう」と頑張ったそうなのだが、長続きせず、ついには会社を辞めてしまった。
今はフリーランスのエンジニアとして、生計を立てているそうだ。
その時私は、「まあ、遅刻ばかりだと会社には居づらいし、まともに働くのは難しいだろうな」としか思わなかった。
しばらく後、私はソフトウェア開発をその方に依頼する機会があったので、一緒に働くことになった。
仕様をコチラで決め、設計およびコーディング、テストを彼にお願いした。そして、週一回の定例会議を設定した。
そして、プロジェクトが始まったのだが、彼の上のエピソードを、私もすぐに実感することとなった。
ミーティングが15時から出会っても、13時からであっても、彼は「必ず遅刻する」のだ。本当に「時間どおり」ということが無いのだ。
通常ならば、怒る人も多いのかもしれない。
だが私は「なるほど…これか」と思ったが、彼にとやかくいうことはしなかった。
なぜならば。
彼はプログラミングに関して天才だったからだ。依頼したことはこちらの意図も組んで実装し、こちらの先回りをしてロジックのチェックもしてくれる。しかも、仕事はとても早い。
様々な技術者と会ってきたが、彼は別格だ。
一見無理そうなこちらの注文も、殆どの場合は技術的に解決してくれる。納期もきちんと守る。
彼ほどの技術者には中々巡り会えないだろう。
そこで、私はひとつの疑問に突き当たった。
彼は前職、「9時までに会社に来るように」という上司の命令に従わなかった。そのため、会社は彼を放逐した。
しかし、その代償として、その会社は1人で5人分、10人分の働きをする技術者を失ったのだ。
「9時までに会社に来る」ということは、技術者の生産性とはほとんど関係がない。気持ちが乗る時間帯に仕事をするのが一番はかどるし、結局は生産性の高い仕事ができる。
極端な話かもしれないが、人との約束に遅れる、というのも、客が特にとやかく言わず、成果物がきちんとあがってくれば、問題はない。
前職では、遅刻者には厳罰が課された。時には降格や減給という厳しい処置を下す事もあった。
当時は「サラリーマンなのだから、当たり前」と思っていたのだが、今の状況を見ると、そう決めつけるのにいささかの疑問もある。
「得意なこと」について力を発揮してもらい、「できないこと・苦手なこと」には目をつぶる。
長所進展、強みを活かす、という言葉を使う人は多いが、形式を重視するあまり、本当にこれを実践している人は実に少ないのではないだろうか。
そんなことを、彼の働きぶりを見て感じたが、どうだろうか。
(事業サービス責任者-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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