「おいしい料理を食べるのは好きですか?」
こう聞かれて「嫌いです」と答える人はいるだろうか。
この質問をされて、「答えがわかりきっている質問」というものが存在するのだな、と思った。
これには他にも「楽しい映画を見るのは好きですか?」や、今の時期なら「綺麗なイルミネーションを見るのは好きですか?」などが該当する。「おいしい」「楽しい」「綺麗な」といった、誰もが好きだと答える形容詞を付けた質問をされたら、好きと答えるのは当然だ。
答えがわかりきっているからこそ、答え方に迷う。
「好きです」と答えても、聞いた相手は「そりゃそうだよね」という感想しか抱かないだろう。だったらそもそもこんな質問なんてしなければいいのではないかとも思うが、この質問が単体で意味を持つことはないにしても、会話の一部としては機能しているのだろう。(「好きです」と答えたあとには「じゃあ一緒に食べに行こうか」という流れになったり、「どんな料理が好きなの?」と更なる質問が待っていたりするものである。)
結局、「人並みに好きです」という答え方に落ち着く。「好きかと聞かれたらもちろん好きなんですけど、でもそれって誰でもそうでしょう? だから人並みに好きですよ」を短く言って「人並みに好きです」なのだ。
さて、この「人並みに好き」というのが厄介で、人並みに好きなことを趣味と表現していいものなのかがわからず、最近私を悩ませている。
社会人になって気づいたのだが、どうやら大人は相手の趣味を知りたがるものらしい。
いや、違うか。学生の頃はわざわざ趣味を聞かなくても共通の話題があったし、ある程度共通した背景もあったし、おしゃべりをしていくうちに自然に相手の好きなことやプライベートを知ることができた。
ところが社会人は相手の背景を全然知らない状態で、友達感覚でぺちゃくちゃとおしゃべりする感じでもなく、限られた時間の中で会話をして相手のことを知っていく必要がある。そこで端的な質問として「趣味は何ですか?」と聞かれるのである。
しかし「趣味を語ること」をあまり求められてこなかったせいか、すぐに答えが出てこない。
好きなことならたくさんある。それこそ冒頭にもある、「おいしい料理を食べること」は好きだし、「楽しい映画を見ること」も「綺麗なイルミネーションを見ること」も好きだ。
でもそれは趣味とは言えないだろう。なぜなら、みんな好きだから。みんな好きなことに対して「人並みに好き」なだけだから。
人並みではなく、人並み以上に好きだったら趣味なのかというと必ずしもそうとは言い切れない。
たとえば私は働くことが(おそらく人並み以上に)好きだが、「仕事が趣味です」というとプライベートが充実していない残念な人間だと思われるらしい。
学生の場合、もし勉強が大好きだったとして「趣味は勉強です」と言ったとしたら、面白みのない人間だと思われるのだろう。社会人は働くものであり、学生は勉強するものである。当然にそうするはずのことを好きになったとしても、それは趣味とは言えないらしい。
人並みに好きではダメで、当然にそうするはずのことを人並み以上に好きになってもダメ。
こう書くと、趣味とは「しなくてもいいことを人並み以上に好きなってするもの」なのだと言っているように聞こえるかもしれないが、私の結論は「趣味とは“好き”の他人との“差異”である」というものだ。
この観点で考えると、おいしい料理を食べることも趣味になりうる。いわゆるグルメや食通の人もそうだろうし、「おいしい料理を食べに行くために毎週末ドライブしています」とか「特に●●という食材が好きで、よく食べに行ったり作ったりします」などと言われたら、他人との明確な差異が見え、「あ~この人にとっておいしい料理を食べることは趣味なんだな」という納得感が生まれる。
もし仕事が趣味だとしても、そこに具体的な何かがあれば相手は差異がわかり、「なるほど」と納得してくれる。
自分の例になってしまうが、私は会社で働きながら発見したことを文章に書くのが好きで、会社で働くことも文章を書くことも仕事と言えば仕事である。
これを「仕事が趣味」だと表現すると「仕事は趣味とは言えないでしょ」といったリアクションをされてしまうが、具体的に説明すると趣味だと思ってもらえるようなのだ。仕事は社会人なら大抵の人がしているから差異が見えないけれど、具体的に話すと差異が見える。差異が見えると趣味として認識してもらえる。
結局のところ、趣味を語る難しさとは、他人との差異を探す難しさであり、抽象的な「好き」を具体化する難しさだったのだと思う。
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皆さんは、趣味を聞かれたらすぐに答えられますか?
私はこの文章を書きながら、ようやく趣味をきちんと答えられるようになった気がしています。
ではまた!
次も読んでね!
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第4回テーマ 地方創生×教育
2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。
【ご視聴方法】
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当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/6/16更新)
[著者プロフィール]
名前: きゅうり(矢野 友理)
2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。
著書「[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」」(マイナビ、2015)
Twitter: @Xkyuuri
ブログ:「微男微女」