wiredで、衝撃的なニュースを見た。
一時期かなりの話題となったスタートアップに関する報道だ。
ジョブズになり損ねた女:DNA検査の寵児、エリザベス・ホームズの墜落
称賛と金とを集めたバイオテックスタートアップ、セラノス。
『Vanity Fair』の記者ニック・ビルトンによる徹底的な取材から、若き創業者エリザベス・ホームズは「指先からの血液1滴で
すべてがわかる」と謳った血液検査テクノロジーの信頼性について、同社チーフサイエンティストら医療専門家の意見を無視し続けてきたことが判明した。(Wired)
端的に言えば、一滴の血液で、血液検査ができるとの触れ込みで、多くの注目と資金を集めたが、実際には中身がなく、詐欺同然であった、という話だ。
彼女を褒め称え、持ち上げたForbesらのメディアは面目丸つぶれだ。Forbes紙は、経営者であるホームズ氏を「成功モデル」として取り上げた誤りを認め、「米国で最もリッチなたたき上げの女性」のリストからホームズを抹消したという。
医療と言えば、日本でも積極的に推し進めている会社がある。DeNA社だ。
だが先日、DeNA社のサイトが相次いで閉鎖した。
ディー・エヌ・エー(DeNA)は、著作権侵害などの問題が指摘されている医療情報サイト「WELQ」を含む9サイトを11月29日から相次ぎ非公開とした。
7日に同社のキュレーション事業では主力の女性向けサイト「MERY」も非公開とすることを決めた。月間利用者数がのべ約1億5000万人に上る10サイトが非公開となる異例の事態となった。法律上では何が問題に当たり、サイトの運営者はどのような責任を負うのか。(日本経済新聞)
発端は、医療情報に関してDeNA社がアチラコチラのwebサイトからの不正確な情報を切り貼りしただけのコピペサイトを粗製乱造したため、批判を浴びたことだった。
一時期これらのサイトは利用者を欺き続け、巨大なトラフィックを集め続けたが、結局はサービス停止に追い込まれた。
セラノスとDeNA、やっていることは違えど、その思想は酷似しているように感じる。
大きな注目やトラフィックを集めても、結局ダメなものはダメなのだ。
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だが、我々は本当に彼らを嗤えるだろうか。
拡大を急ぐあまり、中身と責任感のないサービスを推し進めてしまう話は、あまりにもありふれている。
思い起こすと、一昔前、あるWebサービス立ち上げプロジェクトに途中から参加したことがあった。
「経営者の肝いりプロジェクト」だったそのサービスは、大きなシステム開発投資を行っていたが、どうにもうまく立ち上がらず、「うまく売って欲しい」と依頼があったためだ。
しかし、見ると問題があるのは明らかに営業やマーケティングではなく、商品そのものであった。同様のサービスで、低価格で機能も豊富な競合製品がいくらでもあったのだ。
もちろん「これは営業の問題ではなく、商品の問題ではないか」との指摘は他のメンバーからも相次いで出されたが、上層部は「これだけの投資をしたのだから売れないほうがおかしい」と、それを撥ね付けた。
結果として、中身がないのに、売り込みと宣伝だけは素晴らしい、というサービスが、会社の「売上目標」という都合で無知な顧客に売りつけられた。
当然の事ながら、サービスは数年も経たずに「なかったこと」となった。
一方で、Googleは、これらの会社と全く反対の立場を取る。
企業が成功を続ける唯一の方法は、プロダクトの優位性を維持することだ。だからプロダクト戦略に関するグーグルの最も重視するルールはユーザーに焦点を絞ることだ。(中略)
利益が出るまでにしばらく時間がかかることもある。だからこの方針を貫くには、相当な信念が必要だ。ただ、間違いなくその価値はある。*1
結局のところ「商品が突き抜けていること」は売れる商品の数ある条件の1つでなく「前提」となった。
「必死に活動する営業」が、半ば顧客を欺いて売りつけてしまった商品が、結局会社の評判を下げてしまうのだ。
かつて、webがこれほど広く利用されていなかった時代、個人や一介の中小企業が発信する手段を持たなかった時代は、資本で評判をコントロール出来た。
一部のユーザーが不満を持とうが、マスメディアに金を出せば、評判をある程度保つことができたからだ。
だがいまはそうではない。
評判やプロダクトの欠陥を糊塗しても、結局すぐにユーザーの中でそれが広まってしまう。
アップルの創業者の一人である、スティーブ・ウォズニアックは、「マーケティング会社てなんてまっぴら」と述べた。
(マーケティング)委員会なんかが画期的なものを生み出せるわけがないよ。合意が得られるはずがないからね。
なぜエンジニアはアーティストににていると思うのかって?エンジニアは自分で想像もしていなかったほど完璧なものを作ろうとすることが多いからさ。部品の一つ一つ、配線の一本一本、すべて意味があるんだ。(中略)
画家が絵筆で色を重ねていくように、あるいは、作曲家が音符を重ねていくように。そして、完ぺきを求める努力、だれもやったことがない形であらゆるものを完璧に組み合わせる努力、これこそが、エンジニアであれだれであれ、真のアーティストを生み出す源泉なんだ。*2
営業、マーケティング、広報活動と言ったものは、事業の主従関係においては「従」に過ぎない。
それが逆転した時、結局ユーザーや世間を「騙す」ことになる。
冒頭に述べた2社のサービスは、それが逆転してしまった数ある事例の一つなのだろう。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
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3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
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