ところでしんざきは一応システム部署の中間管理職です。日々書類とか進捗票と格闘したり格闘していなかったり、格闘の末に敗北したりしています。書類処理が遅くて大変申し訳ございません。精進します。

 

結構昔の話ですが、私の部下だった人の中に、「褒められるとやたら自己卑下する」人がいました。

 

私よりも若干年上で、ある分野の技術力については私なんかよりも全然高くって、仕事は早くて、丁寧なテストを書く人でした。彼にお願いしたタスクはほぼ進捗遅延の心配をする必要がなく、品質リスクや技術リスクが顕在化することも殆どなかったので、私は大変に助かっていました。

 

ただ、彼にはちょっと不思議な癖というか、傾向がありました。つまり、「褒め言葉をかけるとすごい勢いで自己卑下する」という傾向です。

 

褒めるといってもそんな大げさな話ではなく、感謝の意を伝えるつもりで「流石、仕事早いですねー」とか「〇〇さんにお願いするとリスク管理が楽で助かります」とかその程度の言葉だったんですが、こちらがそういう言葉を一言かけると、彼からはその3〜4倍くらいの卑下の言葉が返ってきちゃうんですよ。

 

「いや、私なんか全然大したことないですよ、例えばここなんて××で△△で」といった(品質合格範囲内での)ダメ出しを始めたり、とか。

「いやー、◇◇さんに比べたら全然〇〇で」といった、また別の人を持ち出して自分を落としたり、であるとか。

 

謙遜なのかな?とか、理想が高いのかな?と、最初は単純にそう思っていたんです。確かに、「何が出来なかったのか」という点について振り返って分析することだって重要です。中には、「そんな大したことじゃないところで褒めんな、分かってねえな」なんて職人気質の人だっているかも知れません。それならそれでいいんです。

ただ、二点気になったのが、「謙遜や振り返りにしても、ちょっと度が過ぎているように思えたこと」と、「別の部署の責任者さんが「〇〇さんちょっと褒めにくいね」と言っていたのを聞いたこと」。

 

褒める側としても、褒め言葉をかける度にがーっと反論が来たら非常に褒めにくいですし、中には嫌な気分になってしまう人もいるかも知れません。また、自分にとっても周囲にとっても、「褒め言葉のやり取り」でその人の評価が定着していく側面ってあると思うんですよ。

モチベーション的な意味でも評価的な意味でも、褒め言葉は素直に受け取っておくに越したことはない、と思うのです。私は、彼の「褒められた際の自己卑下」が、随分彼を損させているような気がするなー、と感じていました。

 

部署の飲み会で何度か一緒になったり、お昼を食べにいったりで、少しずつ仲良くなってぽつぽつ話を聞いている内に、その人が「褒められ下手」である理由がなんとなく分かりました。

 

自己卑下は、彼にとってはどうやら一種の「防衛反応」なのです。どうも彼は、褒め言葉に類する言葉を聞くと反射的に身構えてしまうようで、いってみれば自分の精神を守る盾として自己卑下をしている、ように思いました。

根本的な原因は自己評価の低さ、自己肯定感の低さにあると思うのですが、彼は要するに「褒められ下手スパイラル」に陥ってしまっていたのです。

 

彼は決して、「褒められたくない」「褒められても嬉しくない」というわけではなかったのです。ただ、子どものころからどうも「褒めてくれる人」が周囲に全くいない環境で育ったらしく、また他にもいろんな事情が重なって、自己肯定感が非常に低くなってしまった。褒められても、「その褒め言葉を素直に受け入れる」ということが出来ず、相手が本心で褒めてくれているかもわからず、取りあえず相手の褒め言葉を否定する、というループに陥ってしまっていたようなのです。

 

褒められ慣れていないから、褒め言葉を拒絶してしまう。拒絶してしまうから、ますます褒められなくなる。褒め言葉拒絶の悪循環です。

周囲からも、彼の実力が実力通りに認められていない、一つの原因になっているようにも思いましたので、多少でもなんとかしてあげたいなーと思いました。

 

私は彼に、一応の上司としてこんなことを話しました。

 

私にとって褒め言葉は単純な感謝であって、別に他意があっておだてている訳じゃないんです、と。

別に心情的に受け入れてくれなくてもかまいませんので、出来れば「そう?あんがと」くらいの気持ちで受け入れてもらえると嬉しいです、と。

 

それからも色々あったんですが、しばらく経つ内に、私が褒め言葉を投げると「ありがとうございます」と言ってくれる、くらいにはなりました。他部署の人たちからの彼の評価も上がっていきました。「褒め言葉拒絶スパイラル」も少しは改善してきたんじゃないかなあ、と、私からはそう見えました。

 

最近分かってきたんですが、「褒められ慣れていない」あるいは「褒められ下手」の人、結構たくさんいるみたいなんです。私なんかは根拠のない自己評価が高すぎて24時間365日調子に乗ってるようなお調子者人間なので、褒め言葉に対する抵抗が全くないんですが、「褒められると反射的に警戒してしまう人」ってたくさんいます。

そういう人の間では、「褒め言葉拒絶スパイラル」はそんなに珍しいものでもないのかも知れません。

 

ただ、

・褒め言葉は、受け入れられるものなら素直に受け入れた方が得なことが多いです

・別に深く反応する必要なんてないので、卑下するよりは「ありがと」の一言で流しておけると良いのではないかと思います

という二点については、割と一般的に言えることなんじゃないかなあ、と。

 

「叱られた時と、褒められた時の態度は大事」ってこと、むかーし私の上司からも言われました。謙遜にせよ調子乗りにせよ、やり過ぎは多分あんまりよろしくない。自分でも気を付けたいなーと思った次第です。

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
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・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

【プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城