前回、「説明がうまくいかない理由」について考えてみたのですが
(参考リンク:「みんなにわかってほしい」はずなのに、「伝わらない言葉」を使っていませんか?)
率直なところ、「こちらでどんなに努力をしてもうまくいかない事例」ってありますよね。
なかでも、「キレやすい高齢者」には、僕も少なからず直面してきました。
若い頃は「僕よりずっと人生経験もあるはずの『大人』が、なんでこんなふうに聞く耳を持ってくれないのだろう?」と、うんざりしていたんですよね。
もちろん今でも、普通に話していて突然キレられたりすると、「なんで?」と混乱してしまうことはあります。
その理由として、こちらの「説明不足」あるいは、「説明のしかた、態度に問題がある」ことも少なくはありません。
そもそも、団塊の世代より少し上くらいになると「年長者は敬われて当たり前」だと考えている人は多いというか、それが「常識」ですし。
ネットだと、高齢であるだけで「老害」とか言われてしまうのですが、今の日本の社会では、少なくとも建前上は「おじいちゃん、おばあちゃんを大切にするべき」だとされています。
老人として生まれ、どんどん若返っていく、ベンジャミン・バトンでもなければ、人はみな「生きていれば老人になる」わけですから、あまり邪険にするのも得策ではないでしょう。
携帯電話ショップでの高齢者トラブルでは、生まれたときから携帯電話が存在していた若者と、還暦を過ぎてから周りに薦められて携帯電話を持つようになった高齢者では、下地が違うということも理解しておくべきです。
後者のなかには「電話としてしか使わないし、他の機能には興味がない」、あるいは、「メール(LINE)とGoogleくらいしか使わない」という人が、たくさんいます。良い悪いじゃなくて、「それで十分」なのです。
そういう人でも、スマートフォン以外の選択肢が狭くなってしまい、必要としていない機能を説明したりされたりしなければならない、というのは、不幸ですよね。
こちらからすれば、「いろんな機能を使ったほうが楽しいし、便利なのに」と思うのだけれど、「そういうのをこれから覚える面倒くささ」のほうが先に立つ人や年齢というのがあるみたいです。
もちろんこれも「人それぞれ」なのですが。
そして、世の中には「他人の無知を利用して、儲けようとする人」が少なからずいて、高齢者はとくにそのターゲットにされやすいのですよね。
あれだけ「オレオレ詐欺」への注意が喚起されていたり、「PCデポ問題」が報道されていると、「自分にとってよくわからないことを言って丸め込もうとしている(ように感じる)人」に対して、頑なになってしまうのも仕方ないのかな、と。
携帯ショップって、けっこう、「不要なオプションや割高な周辺機器を売ろうとしてくる」ことが多いなあ、と、僕はいつも感じるのですよ。
それが「商売」なのかもしれないけれど、客側としては、「油断できない」のです。
先日、仕事帰りに某ドラッグストアチェーンに寄って、風邪薬を買いました。
自分の職場で処方してもらえばよかったのだけれど、慌ただしい日で、タイミングを逸してしまい、家にもストックが無かったので。
そこで、薬をサッと選んで、レジに持っていこうとすると、「店長」という名札をつけた人が寄ってきました。
「お客様、風邪薬ですか?」
……なんかめんどくさそうな予感……
「お客様、飲む点滴って、ご存知ですか?」
……ああ、また「飲む点滴」か……
このチェーン店では何度か薦められたことがあるというか、毎回薦められるのですが、日頃から「過剰な点滴信仰」にさらされて困惑している立場からすると、「うんざり」なんですよね。
そもそも、普通の生活をしている人の風邪くらいだと、酷い脱水状態であるとか、水分を口にすると吐いてしまう、とかいう状況でなければ、点滴は必要ありません。
口からの水分やスポーツドリンクの摂取で事足りるのです。
熱い日に熱中症予防として、スポーツドリンクと併用する、あるいは、水分は摂れるけれど、かなりキツくて家でぐったりしているのならともかく、こうして自分で歩いてドラッグストアに来て薬を買え、普通に会話できるくらいであれば、「飲む点滴」をわざわざ買って飲むメリットはほとんどない。あえて言えば「これを飲んだから元気になったような気がする」くらいのものでしょう。
僕の場合には、そういう心理的な効果もなさそうです。
こういうのも「他人の困った状況を利用しようとするセールストーク」で、世の中には、これを「うまい商売のやりかた」として推奨している店が少なからずあります。
こんな体験を積み重ねることによって、客側も「何か自分にはわからないことを、熱心にすすめてくる人」に対して、どんどん警戒心を強めていくのです。
「この人は、自分を騙そうとしているのではないか?」
ターゲットにされやすい高齢者が、疑心暗鬼になっていくのは必然なんですよね。
相手が優しく話を聞いてくれる「いい人」だから、と、いろんなものを騙しとられてしまう事例を考えると、むしろ、疑心暗鬼になっているほうが健全ですらある。
「飲む点滴をすすめる」くらいは、違法ではないですよ、たぶん。
でも、「ノルマの圧力」に「売る側の良心」は抑えつけられてしまっている。あの店長も薬剤師であれば、あの状況の僕に本当に「飲む点滴」が必要だったかどうかは、わかっていたはず。
そうそう、ひとつ言っておかなければならないのは、高齢者の場合には「耳が遠いので、話がよく聞こえていない」ということが、けっこう多いんですよね。
にもかかわらず、「聞こえないと言うのは恥ずかしい」というプライドとか、相手にそう言うのが申し訳ない、というような気持ちがあって「実はあなたの話は、よく聞こえていない」ということを伝えてくれないのです。
そして、「よく聞こえていないのに、相手が早口+小さめの声でまくし立ててくる」ことに苛立ちがどんどん積もっていき、最終的にはその場で爆発する、あるいは、後で不満を告白するのです。
病院で多くの高齢者に接してきて、入院した後に家族から「いや、実は先生の話、耳が遠くて本人はよく聞こえてなかったんですけど、先生に悪いと思って、聞こえているフリをしていたんです」って言われたことが何度もあったのですよね。
そういう可能性も、説明する側は「想定」しておくべきなのです。
こちら側からすれば、「聞こえないのなら、そう言ってくれればいいのに……」と思うのですが、熱心に説明している人に向かってそう言いにくい、という気持ちもあるのでしょう。
そもそも、以前はできていたことが、できなくなる、というストレスは、若者が想像するより、ずっと大きいみたいなのです。
携帯ショップなどでは、「耳が遠い高齢者向けの話しかた」とか「文字を大きく、内容を極力わかりやすくした説明板」などを今後は積極的に取り入れていくと差別化できるかもしれません(もう、そのくらいのことはやっている可能性もありますが)。
ただ、念のために付記しておきますが、「クレーマー気質」というか、「とにかく何かに文句を言いたくてしょうがない人」というのは、低いながら一定の割合で存在しています。
ですから、「どんなに気をつけても、トラブルは起こるときには起こる」ものではあるんですよね。すべての事例において、「説明のしかたで、どうにかなる」というものでもないことも、知っておいていただきたいのです。
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【著者プロフィール】
著者;fujipon
読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。
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