参考リンク:知識レベルに格差がありすぎると「普通に話しているだけ」なのに相手にとっては「バカにされている」ように感じる
この話を読んで、「説明すること」の難しさについて、あらためて考えさせられました。
僕は医者なので、患者さんに治療についての説明をする機会がたくさんあります。そういったときにいつも感じるのは、「説明を尽くす、ということは、どこまで可能なんだろう?」ということです。
例えば、「すい臓」という臓器がどこにあって、どんなはたらきをしているか全然知らない人に、すい臓がんの手術の必要性や切除範囲を説明することは非常に困難だと思いませんか?
それこそ、「すい臓というのは、体のこの部分にあって、こういう働きをして…」という学生講義風の説明をやりはじめたら、もうキリがありません。そして、医学について基礎知識がないひとたちに、完全に理解可能なように病気のことを説明するというのは、とても難しいことなんです。
正直に言うと、人体の構造についての基礎知識に乏しい患者さんに限られた時間で病気のことを100%説明するのは、無理なのではないかと僕は考えています。
では、どうして「説明」するのか?というと、「病気のことを可能なかぎり理解してもらうこと」のほかに、「理解したような気持ちになって」安心してもらうこと。および、「この医者は患者の話をきちんと聴いてくれる人だ」と信頼してもらうこと。が目的だと考えています。
結局のところ、よくわからない説明を受け、何かの選択をせざるをえないときには、「この人は信頼できるか」を基準に判断している人が多いのですよね。
僕が外来の診察室の壁越しに他の医者の説明を聞いていて感じるのは、説明が苦手で、トラブルを起こしがちな人は、専門用語や横文字をそのまま使いがち、ということなのです。
「この検査は、カテーテルを使って行ないます」
「太い血管にバイパスをつくります」
相手は「カテーテル」とか「バイパス」という言葉を理解できるのだろうか?
医療現場では、日常用語なので、ついつい使ってしまう、というのもわからなくはないのですが……
ただ、最近は「患者さんへの説明に力を入れている(あるいは、注意している)」医者が多いので、こういうのも「カテーテル、という細い管」とか、「バイパスといって、人工的に血が流れる新しい道をつくってあげて……道路のバイパスと同じですね」とか、かなり改善されてきています。
日本語ならだいじょうぶ、というわけでもなくて、「生検した組織を病理検査に出して確認します」というのは、音声にすると
「せいけんしたそしきをびょうりけんさにだしてかくにんします」
になるわけですが、「せいけん」とか「びょうりけんさ」というのも、そんなに簡単な言葉ではないんですよね。
ですから、それも「病気が疑われる内臓の一部を切り取って、顕微鏡で癌の細胞が含まれるかどうか確かめます」くらいのわかりやすさに「翻訳」するわけです。
若い医者ほど、こういう説明が上手い(あるいは、患者さんにわかりやすい)場合が多くて、ベテランになると、専門用語だらけで、「これ理解されているのかな?」って心配になることが多いのです。
たぶん、長年医療の世界で仕事をして、「わかっている人」に囲まれていると、「常識」のハードルが上がってしまうんでしょうね。
しかしながら、実際は説明のわかりやすさ云々よりも、自信たっぷりに語るベテランのほうが患者さんからは「信頼」されることも少なくありません。
現場で仕事をしていて感じるのは、「とにかく医者なんて偉そうなヤツは信用しない!」と「自分は患者で客なんだから、医者は自分の言いなりになるべきだ」というバトルモードでやってくる人が、わずかな割合ながら存在する、ということなんですよね。
「とにかく治してくれればいいんだよ!」
「何かあったら訴えてやるからな!」
ベホマ(RPG『ドラゴンクエスト』の回復呪文)とか使えるんだったら、すぐに使ってお引き取りいただければ、お互いにとって、こんなに幸せなことはないのですが……
まあ、そういう事例はさておき(というか、長くなるので、「キレやすい高齢者」への対応については、また次にでも書こうと思います)、説明が通じない人のひとつの特徴として、「横文字や専門用語を相手を見ずに多用してしまう」というのはありがちです。
自分や、自分の仲間、同じ世代の人が知っていることは、みんな知っているだろう、と思い込んでしまうんですね。
スマートフォンのような「新しい技術がどんどん入ってくるところ」では、横文字が当たり前になりがちなのですが、高齢者のなかには本当に「そんなこと知らない人」が多いのです。もちろん、僕よりずっと使いこなしている人もいるのけれど。
「アプリ」とか「インストール」とか、「アップデート」(いや「更新」だって、案外わかりにくいものですよ)とかが「万人に通じる言葉」だと思っている人は、考え直したほうがいい。
こういうのを「わからない人にも伝わりやすい日本語」に翻訳するのは、大変難しいことではあるのですが、そこで「アプリはアプリですよ!」みたいな対応をすると、それは「あなたに歩み寄るつもりはありません」という態度だと相手には思われてしまいます。
でも、そういう人って、多いんですよね。
ネットでいろんなWEBサイトをみていても、「相手のことを想像できていないなあ」と感じることが多いのです。
「もっとPVを集めて、アフィリエイトで稼ぎたい!」とか、「イノベーションを起こします!」とか書かれていると、僕はその時点で、「ちょっと難しいんじゃない?」って思うんですよ。
「普通の人」あるいは「そんなにネットに詳しくない人」相手に読んでもらおうと思うのであれば、せめて「PV(ページビュー)」あるいは「PV(ページビュー:閲覧者数)」と、最初に一度は説明しておくべきです。
あなたにとっては「いつも更新している見飽きたサイト」なのかもしれないけれど、はじめて来訪して、そのエントリを読む人だって、いるわけですから。
僕の世代(40歳代)くらいだと、PVでまず思い出すのは「プロモーションビデオ」ですし。
「PV」くらいは、もう「一般的な言葉」になりつつあるのかもしれないけれど、たぶんまだ「知らない人は知らない言葉や概念」だし、より多くの人に読んでもらおうという姿勢であるのなら、そういう「まだ『PV』とは何か知らない人」にこそ、新規開拓の余地があるのです。
「このくらい知っていて当然」とか「どうせ説明してもわからないだろう」というような「態度」や「姿勢」って、けっこう伝わっているものですよ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
著者;fujipon
読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。
ブログ;琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで
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