あるシステムエンジニアリング会社での話だ。

新卒採用が始まり、早速面接が開始された。

 

去年も含めて、それなりの数の学生の面接を見てきたのだが、最近強く感じたことがある。

それは、新卒も「ポテンシャル採用」から「実績採用」になりつつあるのではないかということだ。

 

新卒に「実績」など、おかしな話と思うだろうが、

何故そう思ったのか、少し書いてみたい。

 

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その会社の面接はこんな具合に進んだ。

新卒の学生が面接官数名が控えている部屋に入り、両者が挨拶をする。

二言三言、雑談をした後、面接官が聴く。

「何故エンジニアになりたいと思ったのですか?」

 

以前は「なぜ当社に入りたいと思ったのですか?」という質問が多かったが、最近では面接官もテンプレ通りの質問はしない。

また、「うち以外にも会社はたくさんある」と面接官は比較的冷静に考えているので、最近の面接官は「何故うちなのか」をあまり聞かない。

逆に増えたのはなぜ「この職業」なのか、という質問だ。

 

もちろん学生もそこは対策してきている人が多いので、よどみ無く答える人が比較的多い。

このシステムエンジニアリング会社では7割位の学生が「ものづくりがしたいからです」と回答していた。

これは想定通りの質問なのだろう。

 

しかし、面接官はそこには特に触れず、こう聞く。

「ものづくりがしたい、と言うのは弊社も歓迎です。ちなみに、あなたはこれまでに何を作ってきましたか?」

 

ここで、学生は2つにわけられる。

目を輝かせて楽しそうに「自分の作ったもの」の説明をする学生と、「学校の授業で……簡単なゲームを……」と、しどろもどろになる学生だ。

 

例えば、楽しそうに「Raspberry Piで、ルートの画像認識をしながら自走するクルマを作りまして、webにそれをアップしたところ、大きな反響がありました。」という学生は、喜々としてその詳細の仕様まで語ってくれた。

しかし、多くの学生は「簡単なプログラムを組んだだけです」や、「先輩からプログラムをもらって、それを修正しています」という程度に留まる。

結果、前者は合格し、後者は不合格となった。

 

また別の学生たちは「ITで世の中をもっと便利にしたいからです」と語った。

面接官はそれに対して「では、あなた自身が、実際にITで身の回りを便利にした経験を詳しく教えてください」と聞いた。

 

これに対しても誇らしげに、

「私、実は写真が趣味で、同好の士を集めて活動しています。そのサークル活動のために自宅に写真共有サーバーを立ててみました。クラウドを使えば簡単なんですが、自分でやってみようと思いまして、オリジナルのアプリも作りました。」

と答えて、面接官にそのデモンストレーションを披露する学生もいる。

だが一方で、既製品を使った、TVで聞きかじった程度のことしか話せない学生も数多くいて、彼らは不合格となった。

 

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昨今の面接においては、面接官は微に入り細に入り質問をするので、嘘をつくことも難しい。

逆に「意欲」や「意気込み」などについては、言葉で聞くのではなく、態度から判定しようとする。

 

これはもしかしたら面接の対策をやってきている学生が増えたためなのかもしれないが、面接官は淡々と「客観的事実」に触れていく。

 

つまり面接では「最低限のコミュニケーション能力」は必要だが、それよりも遥かに重要なのが

「何をして生きてきたのか」

なのだ。つまり、テクニックではごまかせない「実績」が問われているのである。

 

一昔前、「大学生は勉強なんかしないで遊んでなさい」という話もよく聞かれたし、「授業なんか殆ど出なかったよ」と、誇らしげにいう年配者は珍しくなかった。

しかし今は違う。

新卒も「ポテンシャル採用」から「実績採用」になりつつあるのか。

 

もしかしたらそれは、大学が「専門学校化」していることの、一つの現われなのかもしれない。

「社会に出て、すぐに役立つことをやっていなければならない」

が、強く問われる時代となったこの急激な変化に、いささか驚いている。

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

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