「あの人は人格者だからね―」と、皆が言っている。
壇上で演説をする経営者に向けた言葉だ。
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とある企業のパーティーでのことだ。
その経営者は先代から継いだ会社を、もう十数年経営しているそうだが、会社の業績は好調、離職率は低く、下手な上場企業よりもはるかに給与も良い。
そして、実績をだしているとあって、その経営者をけなす人物はほとんどいない。オーナー企業であるから、うるさい株主もおらず、経営も非常にやりやすいだろう。
彼は「人格経営」を標榜しており、マネジメントの方針としてそれを採用しているという。私はその「成功者」たる経営者の自身に満ち溢れた表情を見、少し考えた。
「果たして「人格」を中心に据えるマネジメントは、効果があるのだろうか。」
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「成功するビジネスパーソン◯つの法則」と言ったタイトルの記事をよく見かける。
しかし、それらを鵜呑みにはできない。
例えば、「成功するビジネスパーソンは、よく本を読む」という主張がなされていた時、
◯本を読んだから、成功したのか?
◯成功したから、本を読むようになったのか?
◯「IQが高い」など第三の要因があって、そこから「ビジネスでの成功」と「よく本を読む」という結果が導かれたのか?
上のどれが正しいのかはわからない。
同じように、「素直なビジネスパーソンは出世する」といった言説も、判断を留保したほうが良さそうだ。
◯素直だから出世したのか?
◯出世したから素直になれたのか?
◯「話すのが苦手」だから、「素直だと思われ」かつ「教えてもらえる」ので、出世できたのか?
これもわからない。
ご存じの方も多いだろうが、これらは全て、「相関」と「因果」の取り違いに起因する。そして、この手の話は学者であっても取扱いに注意している。
例えば、行動経済学者のニック・ポータヴィーは次のように述べる。
相関関係と因果関係の違いは、幸福の研究者だけでなく社会科学者全体にとっても何より重要な事だ。
私たちの生活に見られる多くの出来事は相関しているーーある町の消防車の数とそこで起こる火事がもたらす被害。
大学でのタバコの消費量と低成績、学校での成績と子供の家にある本の数など。
しかし、そこに因果関係があるとは思われない。
統計学者はこのような関係を「擬似相関」と呼ぶ。そして問題になっている二つの変数に同時に相関する3番目の知られざる変数が存在するという事実によって、これを説明することができる。
著者は「ミネラルウォーターを飲めば、健康な赤ちゃんが生まれる」という見出しを取り上げ、その間違いを指摘する。
実際には、裕福な親のほうが生活水準が高く、必需品でない贅沢品(例えばミネラルウォーター)に対して、裕福でない人たちよりも多くのお金が使えるので、より健康な赤ちゃんがうまれるというだけのことだろう。
言い換えれば、親の収入という変数を追加して考えない限り、この見出しはとても用心して解釈すべきものなのだ。
なぜなら、これから出産する人たちの収入が皆同じだとすれば、ミネラルウォーターを飲むことより健康な赤ちゃんが生まれることには関連性がないと思われるからだ。
ビジネスにはこの「擬似相関」が非常によく登場する。
そして、これらの「擬似相関」に経営者や上司が囚われていると、会社がうまく行かなくなった時にマネジメントが迷走しがちだ。
例えば、冒頭に述べた経営者は、「人格経営」を標榜しているが、人格が優れていることが、成功の原因となっているかどうかは不明だ。
実際にはたまたま仕入れた商品が良かっただけかもしれないし、先代の社長がうまく地盤を築き、番頭たる年長の部下たちがうまく現場を回せているだけなのかもしれない。
もちろん、会社がうまくいっている間は「人格経営」は肯定されるだろう。
だが将来的に、業績が落ち込んだ時、この経営者は「部下の人格」に業績低迷の原因を求めるかもしれない。
「君たちは人格を磨かなければダメだ。」
といったように。
よく考えると、それはとても怖いことだ。
かつて、私が見ていた会社の一社に、
「素直な人は成長する」という標語を掲げ、「素直さ」を大きく社員に求めた会社があった。
しかし、よく考えれば「素直さ」と「成長の度合い」は、擬似相関かもしれない。
実際には成長の度合いは
「与えられた仕事の質」と「上司の指導に費やした時間」のほうが、素直さよりもよほど因果関係があるように私は感じた。
上司が良い仕事を与え、指導に時間をかければ、部下は結果を出す可能性が高い。そして、結果を出すことができれば、部下は素直に上司の言うことを聞くだろう。
「素直さ」は、結果にすぎないかもしれないのである。
だが、マネジメントが稚拙な上司は「素直さ」を信奉するあまり、良い仕事を与えもせず、指導もそこそこに、
「お前が素直でないから、いつまでも仕事ができないのだ」と言う。
私はそう言った状況を数多くの会社で見、
経営者や上司の「精神論や思い込みに起因するマネジメント」の稚拙さを思い知ったのである。
経営者や管理職が
「素直は素晴らしい」
「気合が重要だ」
と思い込むのは勝手である。
しかし、方法論が不在であるのに、人格や精神論をマネジメントに適用し人に強要するのは愚かなことであろう。それは、産業革命以前の話である。
ピーター・ドラッカーはこう述べた。
経験は知識に、徒弟制は教科書に、秘伝は方法論に、作業は知識に置き換わった。これこそ、やがてわれわれが産業革命と呼ぶことになったもの、すなわち技術によって世界的規模で引き起こされた社会と文明の転換の本質だった。
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