夏休み明けの9月1日は、子どもの自殺が増える。
SNSやウェブニュースでは、そんな子どもに向けて「逃げてもいいんだよ」というメッセージが踊っていた。
たしかに、自殺を考えるほど追い詰められている子どもがいるのであれば、「逃げる」という選択肢を与えることは大切だ。
「不登校だったがいまは社会人としてちゃんと働いている」
「学校以外にも居場所はあるはずだ」
こういったメッセージがまちがっているとは思わない。
だが、それだけで終わっていいのだろうか。
「正しい」メッセージは美しいが……
「学校へ行かなかったがどうにかなった」例はたしかに、いま現在追い詰められている子どもに勇気を与えるかもしれない。
だがその反面、義務教育で身につけるべき教養を学ばずに大人になるという不利な面や、高校を中退したあと大学進学まで苦労した人の体験談などにまで触れている人は少ない。
学校に居場所がなく、助けを求めている子どもがいる。「逃げればいい」と言うこと自体はかんたんだ。
だが、そのあとその子はどうなるのだろう。
「学校から逃げてもいい」というメッセージが大切なのはまちがいないが、子どもにそう言うのであれば、「そこからどうやって社会に復帰していくか」について考えるのもまた、大人の責任ではないかと思う。
ほかにも、「ブラック企業で使い捨てられる前に逃げるべきだ」というメッセージもよく見かける。
たしかにそれも、「正しい」メッセージだ。
だが身も心も休養したあと、その人は空白の職歴とともに社会復帰を目指すことになる。
それがかなり不利になることもまた事実だ。
過労死寸前の若者が会社を辞めたものの、うつ病との闘病生活が待っていたとする。ではその人は、どういう方法で社会復帰していくのだろう。
「逃げろ」というメッセージとともに、もう少し「その後のこと」についても考える風潮になっていくべきではないだろうか。
「その後」どうなるか考えたことはあるのか
わたしはなにも、「否定するなら必ず代替案を」と言いたいわけではない。
ただ、「こうすればいい」と言うだけで「その後どうするのか」について話し合われない現状に、違和感を持っているのだ。
学校に居場所がないなら行かなければいい。
限界を感じたら仕事を辞めればいい。
で、その後はどうするのだろう?
不登校児をはじめ、学校に行けない子に対してならば、
・公立の学校以外に、公的に認められる教育機関は必要なのか?
・再び学校に行きたいが勉強についていけない子のために、転校&留年はどうだろう?
・高校の転学をもう少し柔軟にすることはできないのか?
といった「その後」の議論があってしかるべきだろう。
心身の限界を感じて退職、長期休養が必要になった人に対しては、
・うつ病などで一度仕事から離れた人を受け入れる環境を整えるべきでは?
・空白期間がある職歴を補うための職業教育の機会を、もっと増やす必要があるのでは?
・離職者があまりに多い企業には、定期的な厳しい監査を実施できないか?
といった「その後の議論」もまた、セットで行われるべきだ。
対処療法だけでなく根本的解決のために
目先の対処に意味がない、というわけではない。
だがそれと同時に、「ではその後の対応としてこうしていこう」という受け皿について考えることもまた必要だ。
安易に「逃げたっていい」と主張する人が増えた結果、「学校に行かなくていいんだ」と思った子どもが特に理由もなく学校へ行かなくなったり、真っ当な上司からの注意すら受け入れず「仕事なんて辞めたって平気」と離職する人が増えたら、それはそれで困る。
だから、多くの人が手放しに「逃げたっていいよ」と言い続けるのに、わたしは違和感があるのだ。
いま苦しんでいる人に逃げ道を用意すること自体に反対する人はいないだろう。だがそれはあくまで対処療法であって、根本的解決にはならない。
「逃げていい」というのであれば、「逃げた人はどうやってそれを乗り越えるのか」「そもそも学校や労働環境はどうあるべきなのか」についてもセット考える風潮になれば、もっと状況は改善できるのではないだろうか?
それが最終的に、「逃げる必要がある人」を減らす根本的改善につながるかもしれない。
「逃げていい」と優しい言葉をかけるのも大切だが、できれば「逃げたい人を減らすためにはどうするか」、「逃げた人はその後どういった社会復帰の手立てが必要なのか」といったことも、どんどん主張してほしい。
そうでなければ、「環境」全体は改善されていかない。
これからはぜひ、「その後」についても活発に議論されていってほしいと思う。
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【プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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(Photo:Xavier Mazellier)