たまには本業の話も書いてみる。
私の本業は、「メディア運営」「記事広告」「コンテンツ制作」、そして、それらの「拡散」の4つである。
10年以上もやっていたコンサルティングを本業とせず、なぜメディアをやっているかというと、webの素晴らしさに感銘を受けたからだ。
「こんなにwebには力があるのか」
と圧倒された。
何と言っても、webは名もなき個人の意見が、時に何百万人に届く。これは驚くべきことで、まさに「個が力を持つ」時代だ。
特に「拡散」という現象が、私にとっては非常に興味深い研究の対象だった。
そんなわけで、5年ほど前と比べて、様々なメディアに寄稿したり、集客したりと、手伝いをすることがとても多くなり、今に至る。
さて、PRはそれぐらいにして、そんな中で考えざるをえないのが、
「書く」というスキルについてだ。
「書く」は、ここ10年ほどでかなり重要なスキルとなった。
なぜか。
まず、web上では検索エンジンとSNSにもとづいて人が動くため「文字」をベースとしたコミュニケーションが中心となっている。
音声ベースのコミュニケーション手段として多用されていた電話も、今やメール、チャットやメッセージサービスなどの「文字ベース」の手段に取って代わられた。
さらに、複雑かつ厳密な、科学的思考はどうしても文字を中心として記述される。
webは科学的思考ができる人々にとって非常に有利に発信ができる世界だ。だから「知識の結合」「情報発信」の主戦場がweb上に移行している。
「本を読まない人が増えている」のは事実かもしれないが、「文字を読む人」は爆発的に増えている。
世界では毎日、大量のテキストデータが生み出され、webにアップされている。
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しかし「書く」という技術の重要度が上がったことに比べ、「書ける人」はそれほど増えていない。
「良いエンジニアの不足」と同様に、「良い書き手の不足」という状況も、当分解消される見込みはない。
「そんなことを言っても、安く買い叩かれているライターがたくさんいるではないか」という反論もあろう。
確かに、そう言った問題もある。
例えば、「一文字1円」とか、「一文字0.5円」など、粗製乱造を誘発するような報酬の設定をした案件を、クラウドソーシング上で見かけることがある。
ただ、最近ではそう言った案件に人は集まりにくいし、徐々にライティング料も上がっている。
もっと率直に言うと、力があるのに安い案件に甘んじているライターは、単純に言えば営業努力が不足している可能性が高い。
良い案件は、スキルを高めて実績を積み上げ、自分で情報発信し、営業努力を積み上げて取りに行くものである。
営業努力と差別化なしに、「単価が安い」と言うのは、ちょっと違うな、と思う。
話がそれた。
そういうことで、ライターが高コスト化しているので、
企業内では最近、「どうにか自分たちでコンテンツを生み出したい」「ライターを育成したい」という動きが出始めている。
ただ、これが言うほど簡単ではない。
例えば、ある教育業での話だ。
この会社では従来、販促手段として広告にお金をかけてきたが、最近では費用対効果が合わない、と経営陣が判断した。
さらに、最近では競合がwebのコンテンツを活用して大きく成果をあげていることから、経営陣からマーケティング部門へ「コンテンツの発信を強化しろ」との指示が出た。
ただし、多分にもれず、それほど予算は付いていない。
要するに経営陣は「内製でやれ」と現場に命じた。つまり記事を持ち回りでで社員に書かせた。
ところが、これがうまくいかない。
「社員に書かせる」までは良いものの、提出されてくるコンテンツの質が低い。
ビュー数も伸びない。
半年ほど運用し、全く成果らしきものを残せないまま、このブロジェクトは立ち消えになってしまった。
この会社には「書ける人」が存在しなかった。
こう言った事例を数多く見てくると、「文章で人を動かす」はそれほど簡単ではないことに気づく。
村上春樹は「才能が必要」というが、プログラミングと同様、センスにある程度依存しているのかもしれない。
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では、「書ける人」と「書けない人」は、一体何が違うのだろうか?
それにはまず「書ける人」の定義が必要だ。
私が思う「書ける人」とは、「人から言われたテーマを綺麗に書ける」人のことではない。
検索に引っかかる記事は書けるが、その文章のファンは生まれない。
そうではなく、ここに掲載されているような純粋に「ファンを生み出すような記事」を書ける人は、他の人と何が違うのだろうか。
個人的には、以下の点に集約されると感じる。
現実の切り取りかたの妙
マスメディアにはできないけれど、個人メディア、企業メディアにできることは何か。
それは「主観の発信」である。記事は言ってしまえば、主観が強いほど面白い。「主観」が取り除かれてしまっている記事は、去勢された記事である。
ただ一方で、独りよがりの記事は時として読者を不快にさせる。
そこで、「主観」に説得力を持たせるために書き手は色々と工夫をする。
その工夫が「書ける人」の力量そのものである。
例えば、価値の判断基準が自分の外にある人間は表現者になれないという記事がある。
筆者の主張は次だ。
値の判断基準が自分の外にある人間は表現者になれない。その表現の仕方が研究だろうと、スピーチだろうと、絵画だろうと、価値の判断基準は常に自分の内部にあり、その基準に基づいて自分の考えや思いを外に問うのが表現だ。
価値の判断基準が外にある人間は、自分の内部にあるものが外に問うだけのクオリティに達しているかを常に悩んでしまい表現を外に出せない。外に出せない限り、いかなる人間も表現者とはなりえないんだ。
この主張をするため、著者は自身の体験、知識、論理を積み上げている。
精神的な背骨がある人は、自分が間違えることをだいたい許容できる。自分の判断基準からしてどうでも良いことならば、間違えたって直してより良いものにしていけば良いだけだから。自分の判断基準からして重要な間違いならば凹むかもしれないけどね。でも、一度背骨を作り上げている人ならば、背骨自体を強化したり、変更したりできるので案外タフだ。
一方、精神的な背骨が無い人は、いかなる間違いも許容できない。なぜならば、判断基準は外にあるためどの間違いが自分に致命的でどの間違いが自分に致命的でないかが判断できないから。だって、判断するのは他人。完璧に振舞いたいのだけど、どう振舞えば完璧かわからなくなり、自信が無くなり、自分が嫌いになる。まるで、プライドを殻にした甲殻類みたいになるんだ。判断基準は外にあるので、自分が取れる選択肢は「他人に嫌われないようにする」「他人にかっこ悪いと思われないようにする」「他人にできない奴とみられないようにする」というものしかない。強化も変更もできないんだ。
これは本質的には「人が何に興味を持っているか」を看破できる力であり、コミュニケーション能力であり、プレゼンテーション能力である。
「書ける人」は、テーマ設定からして、「書けない人」とは大きく異なる。現実の切り取り方が、普通と違うのである。
推敲する親切さ
「書ける人」は文章を生み出すことについては、さほど苦労しない。というより、常に「書きすぎ」なのである。
しかし、それをそのまま表に出せるわけではない。
文章には「推敲」という作業があり、これを辛抱強くできるひとが「書ける人」である。
太宰治の「人間失格」を直筆で読める本がある。
これを見ると、「作家」はここまで表現を吟味するものなのかと、驚かされる。
推敲の量が普通の人と全く異なるのだ。
実際、知人の物書きは、「下書きを一万文字書いて、表に出るのはその3分の1程度」という。
ときに、村上春樹氏は「推敲が大好き」なのだそうだ。
推敲は僕の最大の趣味です。やっていて、こんな楽しいことはありません。推敲ができるから、小説を書いているようなものです。
最初はだいたい流れのままにさっと書いてしまって、あとからしっかりと手を入れていきます。最初からみっちり書いていこうとすると、流れに乗ることがむずかしくなるので。
推敲にとってもっとも大事なのは、親切心です。読者に対する親切心(サービス心ではなく親切心です)。それを失ったら、小説を書く意味なんてないんじゃないかと僕は思っているのですが。
村上春樹氏の言う「親切さ」とは、まさに「書ける人」が持っていなければならない重要な資質である。
読者を怒らせてやろう、騙してやろう、読解力のない読者は置いていっても構わない……
そういった書き手は、「書ける人」ではない。
読者は、そういった書き手をすぐに見抜き、長期的には離れていく。
「書ける人」は、訴えたいこと(テーマ)があり、表現の工夫に手間を惜しまない(推敲)人々であり、情理を尽くして読者に何かを伝えたい、何かを訴えたい、そういうこだわりの持ち主たちである。
【「コミュニケーション」についての本を書きました。】
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