一時期ホームレスに強く興味を持った事がある。
一体どのような転機をたどった結果、路上生活という生き方に行き着くのかが単純に気になったのだ。
これを読んでいる多くの人は、たぶん普通に学校に通っていたり会社に通っていたりと、まあ屋根がついた家で暮らしている人が多いだろう。
多くの人は自分がホームレスになるだなんて事を考えた事がある人はほとんどいないんじゃないかと思う。
けど実のところ私達・屋根のある部屋で暮らしている人間とホームレスとの間にある距離は意外と近い。
気がついたら、ある日寒空の下でただ時が過ぎ去るのを待つような人生になるだなんて事は、いつ起きても不思議ではない。
と、いうわけで今回は人はどのようにしてホームレスになるのかについての話を書いていこうと思う。
仕事・資産・人縁
日本は基本的にはそれなりに豊かな国だ。貧困国の人々と違い、生まれながらにして路上生活者という人はほとんどいない。
まず大前提として、ホームレスの人達も元々は普通に学校に通っていたり、働いていた人が多い。
つまりこれを読んでいるあなたと、前提条件はほとんど同じである。
なぜ彼等は路上生活者となったのか。
端的にいうとそれは仕事・資産・縁が全て枯渇したからに他ならない。
ホームレスになった多くの人は、大雑把にいうと仕事がなくなり、資産が潰え、そして頼る場所がなくなるという経緯をたどるパターンが非常に多い。
例えば、僕が実際にお話をさせていただいた方は元々は誰でも知ってる有名な企業に務められていた方だった。
バブルが崩壊して会社の業績が傾いた後、リストラ候補となったため会社を辞めて独立したが失敗。
50代で再就職先も見つからず、貯金も底をつき、頼るべき先もないとの事で路上生活者となったのことであった。
またある方は、親の介護をきっかけに仕事を辞めたそうだ。介護が一通り終わったその直後、景気が一気に傾いた事で彼の人生は転落を迎えた。
不景気で再就職先にロクな場所がみつからず、仕事を転々としていったそうだけど、やはり50代付近になった時に就職先がみつからなくなり、貯金が底をつきて路上生活者となったのだという。
僕はこの2人の話を聞いた後、帰り道で自分が2人のような人生に行き着く可能性があるかを何回かシミュレーションしてみたのだけど、普通に全然ありえるとしか思えず愕然とした。
業界再編性に伴う大規模なリストラも、親の介護による休職→再就職難も、どう考えても誰の身にも普通に起こり得る。
つまりホームレスとは怠け者でもなんでもなく、不遇が自分に衝突したら誰でも全然なりうる可能性を有しているのである。
この事を理解した事で僕は人生観が一転し、それ以降、街でホームレスの方々をみると、未来のありえるかもしれない自分の姿としか見えなくなってしまった。
それまで何も知らなかった自分は路上生活者を努力が足りてなかった人だとか、ただの可哀想な人としか認識してなかった。
けど今は違う。運が悪かったり身体を壊してしまって働けなくなった時、自分だっていつでも路上生活者となりうる可能性が生じるのだ。
働ける事は必要とされる事
それ以降、自分は仕事というものへの見方が随分と変わった。
それまではマルクスにかぶれていた事もあって
「資本家にこき使われる我々プロレタリアートは毎日満員電車に揺られて東京で消耗している・・・こんな事は許されるはずがない」
とか考えていたけど、今となっては仕事を頂ける事が本当にありがたい事だと認識するようになった。
社会に必要とされ、社会の一員として認識されているから今の生活が成立している。
けどこれが崩れ落ちた瞬間、自分もいつだって寒空の下で凍える生活になるのかもしれない。
自分は果たして50歳の時に社会から必要とされる存在であれるのか。
その時にキチンと自分はキャリアが保てているのか。
そもそも今やってる仕事は自分が50歳の時、まだキチンと需要があるのか等を考えると僕は不安でかなり胃が痛くなる。
前出のお二人に路上生活の何が辛いのかを色々と聞かせて頂いたのだけど、唯一共通していたのは「朝起きてやる事がなにもない、という日々が終わることなく延々と続く」という事だった。
「働いていた時は毎日仕事に行かなくちゃいけないだとか、そういうやらなくちゃいけない事があったけど、今は逆に何もない。けど人生が延々と続いていって、いつまでも終わらない。これが辛い。人から必要とされる・やるべき事があるって事が、今考えると凄くありがたいことだって気がついたよ」
このように言われた事で初めて気がついたのだけど、やらなくちゃいけない事がある、というのは本当にありがたい事だ。
朝起きるのは辛いし、会社に行かなくちゃいけないのもそれなりには辛い。けど「朝起きてやる事がなにもない、という日々が終わり無く延々と続く」という、今とまったく逆の状況も本当にキツい。
働けるという事、やるべき事が与えられるというのは、本当にありがたいことだ。
僕は時々だけど、朝起きると自分を必要としてくれる人がいるという天から与えられた幸運に深く感謝している。
それと共に、不遇により不幸な人生に転落した人に思いを馳せるようにしている。
我と彼を隔てる壁は、ただ運がよかったかどうかだけなのだから。
これを読んだあなたも、これからはホームレスを人々をみたら鬱陶しい存在とみなすのではなく、ほんの少しだけ心の中で彼の不遇に祈りを唱えるようにしてくれたらな、と思う。
具体的な支援は誰にでもできることではないけれど、寛容さを自分の中に持つように務める事ならば、誰にだってできる。
社会が今よりほんの少しでも優しさを持てるようになれば、きっと世の中は今よりもっとよくなる。
僕らや彼等の間にある差なんて、本当にちっぽけなものだ。己の幸運に感謝しよう。
人生なんて言うのは、所詮運がよいかどうかで、いかようにも変わってしまうようなものなのだから。
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(Photo:mandu yuri)