「面接だけで、有能かどうか見抜けるか?」(Books&Apps)
採用失敗の本質は「ミスマッチ」にあり、さらに言えば「面接からパフォーマンスを予測する」のが難しいことにある。
僕自身、最近、面接を受けたり、面接をする側になったりという機会があったで、これを読んで考えさせられました。
実際のところ、「面接で能力や人柄を見抜く」っていうのは、けっこう難しいんですよね。
能力はともかく、人柄くらいは、わかるんじゃないの?
僕もそう思っていました。
医学部というのは二次試験で面接が行われることが多いのですが、担当している偉い人に以前聞いた話では、
「それが決め手になるというよりは、明らかにコミュニケーション能力に問題があったり、挙動不審な人を除外するためにやっているようなもの」
だということでした。
それはもう10年以上前の話なので、今はまったく違うのかもしれませんが。
【読書感想】採用学(琥珀色の戯言)
いま、「採用」の最前線は、どうなっているのか?
手にとったときには「企業に採用してもらうためのノウハウ本」かな、と思ったのですが、これは、「採用する側が、いかにして効率よく、優秀な人材を採用するか」という課題について、最新の論文や科学的なデータをもとに論じた本なのです。
1年半くらい前に出た、この本を読みました。
最近は、企業の採用において、なるべく個々の面接官の主観に頼らずに、客観的に評価するための工夫がなされています。
この質問に対しては、こういうふうに答える人が、うちの会社には向いている、という「基準」が示されている場合も多いのです。
ところが、今の情報化社会では、すぐに「就活対策」として、模範解答が共有されてしまう。そして、就活生たちは、同じような模範解答を口にします。
著者は、社会学者の小山治さんが指摘している「採用基準の拡張」という現象について説明しています。
小山さんは、企業の採用担当者のこんな言葉を紹介しているそうです。
もう生理的にって言ったら本当は面接では一番許されないんでしょうけど、ちょっと気になるとか、
一応模範解答はしてるんだけれども、その模範解答は既に、既に準備されている部分で、本当はその裏にみえてこないわれわれが引き出せなかった部分っていうのをもう少し本音ベースでみたい(中略)
今の学生さんたちって結構そつないというか、情報を全部受けてますから、ソレなりに無難にはこなしてしまうんでね。
これに対して、著者はこう述べています。
本来の評価基準である「コミュニケーション能力」「向上心」「ストレス耐性」とは別に、当該求職者との「フィーリングの善し悪し」という基準が持ち込まれ、それを基準に、選抜の最終的な判断が下されてしまったのだ。
本書の言葉でいえば、選抜において、もともとは能力のマッチングを行うことを目的としていたにもかかわらず、その場に、おそらく当の面接官自身も意図しない間に、フィーリングのマッチングが持ち込まれてしまった、ということになる。
能力のマッチングの問題が、覆い隠されてしまったわけだ。
このように就職活動の過熱化による求職者の就職スキルの向上によって、本来重要であるはずの(企業と求職者双方の)能力評価基準が拡張され、さらにフィーリングのような曖昧なものへとスライドしていく。
この種の現象が、私自身の調査でも、かなり頻繁に起こっていることが確認されている。
面接での「フィーリング採用」が、結果的にあまりうまくいかない、客観性に欠ける、ということで、評価基準を設定したはずなのに、情報が拡散し、みんなが準備してくると、そこで差がつかないために、「フィーリング勝負」に戻ってしまっているんですね。
こういうのを嫌って、面接をやめた、という企業もあるそうです。
いまの日本の企業では「コミュニケーション能力」が重視されているのですが、この本のなかでは、産業・組織心理学の研究者のブラッドフォードさんの研究結果が紹介されています。
ブラッドフォードさんによると、人間の能力には「極めて簡単に変わるもの」と「非常に変わりにくいもの」の二つがあるそうです。
ここで注目したいのは、多くの日本企業が採用基準として設定している口頭でのコミュニケーションが「比較的簡単に変化」する能力としてあげられていることだ。
先に紹介した経団連の「新卒採用(2014年4月入社対象)に関するアンケート調査」によれば、日本企業の実に80%以上が、口頭でのコミュニケーション能力を、自社の選考の際に重視する基準としてあげている。
既に紹介した日本企業の人事データの分析からも、日本の面接が、いかにこれを重視して構成されているかということがわかる。
ところが心理学の世界では、これが相当程度可変的なものであり、意図的な努力によって向上するものであることが指摘されているのだ。
大学1年生の時には、人の目を見て話すことすらままならなかった学生が、卒業する頃には他人とのコミュニケーションにすっかり慣れて、立派にプレゼンテーションをこなしたりするなど、私たちの日常的な経験に照らし合わせても、この主張には納得がいく。
コミュニケーションの能力そのものの重要性を否定するわけではないけれど、これが果たして日本企業が採用時にコストをかけて確認するべき能力であるのかどうかという点について、疑問を持たないわけにはいかない。
ちなみに、「非常に変わりにくい能力」とされているのが、「IQに代表される知能、創造性、ものごとを概念的にとらえる概念的能力、また、その人がそもそも持っているエネルギーの高さや、部下を鼓舞し、部下に対して仕事へのエネルギーを充填する能力」などだそうです。
口頭でのコミュニケーション能力というのは、ものすごく重視されがちだけれど、それは、「入社後に、いくらでも改善できる可能性が高い」のです。
もちろん、それも低いより高いにこしたことはないのだけれど、ちゃんと指導できる組織であれば、入り口ではそんなに優先順位を高くしなくても良い、ということなんですよね。
そうか、そういうものなのか……
その観点からいけば、適性試験やペーパーテストのほうが、面接よりも、その人の「変わりにくい、後天的に伸ばすことが難しい能力」を反映しているとも言えます。
「短時間だけ、候補者と直に接してみる」というのは、かえってマイナス面も多いのです。
ただ、実際のところ、GoogleとかFacebookのような「選りすぐりの人材が受けにくる会社」や上場企業では、「能力テスト」が実施できても、中小企業やアルバイトの採用では、そこまでのことはできませんよね。
そんななかで、一緒に働きたい人(あるいは、最低限、一緒に働いても問題なさそうな人)を選ぶための質問について、面接に関わっている人たちが、こんな話をされています。
『はたらきたい。』(ほぼ日刊イトイ新聞・ほぼ日ブックス)より。
(「第1章・面接試験の本当の対策」での河野晴樹さん(「リクルート」入社後、人材派遣事業の運営を推進し、現在は人材紹介会社「KIZUNAパートナーズ」の代表取締役である「採用のプロ」)と糸井重里さんとの対談の一部です)
糸井重里:以前は、河野さんも新卒の面接をやっていたわけですよね。
河野晴樹:ええ、おもに最終面接ですね。
糸井:今、実際に働いている社会人でさえそうなんだから、働いたことのない学生さんたちにそんなこと(この会社は何をしてお客さんをよろこばせているか、ということ)を聞いても、わからないでしょう。
河野:ええ、もちろんわかっていてほしいのですが、そういう人ばかりではありませんね。ですから、本当のことを言っちゃうと、新卒の面接をやる場合、「君がさ、これまで大切にしてきたことって何?」という、ものすごく概念的な質問で十分なんですよ。
糸井:ほぉー‥‥。
河野:「本当に大切にしてきたことは何? あるの? ないの?」って。
糸井:うん、うん。
河野:「それは、言葉になってるの?」。そういうことですね、聞きたいのは。
糸井:その話を聞いているだけで、わくわくしますね。
河野:ははは(笑)。
糸井:いや、つまり、面接官がそう思ってるんだって知ったとき、「聞いてもらえた!」といううれしさと、「やばい、聞かれた!」というあせりと、どっちかの反応しか、ないですよね。
河野:はい。その場面では、すごい答えなんて期待してないんですよ。でも「やばい、聞かれた!」と悲しそうな顔をした人は採用できない。だけど、そこで、うれしそうに話をしてくれる人がいたら、あ、仲間になれそうかな、と思えるんです。
糸井:うん、うん。
河野:うれしそうに目をぐるぐるさせながら考えてくれる人も、すっと答えられる人もいるんだけど、本当のことを言ってるかどうかは、きちんと伝わりますからね。
糸井:そこは、わかるもんなんでしょね。バッターボックスに立ってる数が違うわけですから。
河野:だから、お辞儀の角度がどうだとかそういうことは、ほんっとに、心の底から、どうでもいい。そんなことで落とす会社があったら、むしろ入らなくて本当に良かったね、と。何をどれだけ大切にしてきたか、ということをこちらに伝えてくれるかどうか、なんです。
糸井:つまり、この人といっしょに仕事をやりたいと思えるかどうか。
河野:それに対する答えだって、全然大したことじゃなくていい。サークル活動なんかでも「俺、主将じゃなかったからなぁ」なんて考える必要はない。たとえば、サークルを辞めそうになった人を、引き止めた。これ、素晴らしいことじゃないですか。
糸井:ええ、素晴らしいですね。
河野:あるいは、高校生までウソつきだったけど、大学生になってからはとにかく愚直に、目立ちはしなかったけど、ウソをつかずにやってきた。できるだけ、誤魔化さないようにしてきた。これって、答えとして全然OKですよね。
糸井:はい、全然OKです。
『質問力』(齋藤孝著・ちくま文庫)より。
(「コピーライターの資質を一瞬で見抜く質問」という項の一部です)
谷川俊太郎さんの質問もすばらしいが、もうひとつダ・カーポ別冊『投稿生活』(2002年6月1日号)という雑誌に掲載されたコピーライターの仲畑貴志さんのインタビューに、秀逸な質問の例があったのでここに紹介しておこう。
仲畑さんの事務所でコピーライターを募集した時の質問だ。仲畑さんの質問をご紹介する前に、一瞬自分で考えてみて下さい。
「もし自分が経営者でコピーライターの社員を雇う場合、あなたは入社試験でどんな質問をするでしょうか?」
質問自体はコピーライターの専門家でなくても何とか考え出せるものだ。だがよい答は難しい。
仲畑さんの質問は「あなたがいいと思うコピーを10個書いてください」というものである。
仲畑さんによれば、この答を聞いただけでだいたい能力がわかるというのである。もしあげた10個のコピーがセンスの悪いものだとすればその人に見込みはない。
センスの悪いコピーライターを雇ってしまえば、その人に毎月払う給料はドブに捨てているようなものだ。経営者にとっては深刻な問題である。
よいコピーが生み出せるかどうかは、世に出ているコピーの良し悪しを見分けるセンスと密接に関連している。審美眼があれば、自分の作ったコピーがよいものか判断できる。よくないものであれば、もっとよいコピーを思い出してブラッシュアップしていくだろう。
しかし自分がインパクトを受けたコピーがよくないものだとすると、いくら自分のコピーにヤスリをかけようとしても、ヤスリ自体がよくないのだからブラッシュアップしていきようがない。
10個あげたコピーを見れば、その人の傾向がはっきりわかる、具体的かつ本質的な非常にすぐれた質問といえよう。この質問は応用がきく。
たとえば「あなたが今までの人生でインパクトを受けた本を10冊あげてください」とか「映画をあげてください」とか「人物を何人かあげてください」など、ヴァリエーションを付けられる。
問いの構造がしっかりしているので、その業界ごとに変化させればいい。たまたま出た質問ではなく、よく練られた、構造がすぐれている質問である。
そもそもコピーを10個あげられない人がいれば、勉強不足である。最近は入社試験でしっかり業界研究せずに、ただ憧れで受けてしまうことがある。
だから最低限勉強して来いというメッセージも含まれる。また母集団が20個から10個選んだのか、1000個から10個選んだのかで、その10個は違ってくる。10個出せるかどうかも重要だが、選んだ10個の母集団も重要である。
たとえばお菓子業界のコピーだけをあげてくれば、その人は非常に片寄った勉強をしていることになる。一方いろいろなジャンルから選ばれていれば、アンテナの幅が広い証拠だ。答から、それが出された貯水池の奥行きを推しはかることができる。
『ザ・タワー』『シーマン』などのゲームクリエイター・斎藤由多加さんは、著書『社長業のオキテ』(幻冬舎)のなかで、社員の採用の基準を語っておられます。
二十年にわたる中小企業の社長としての失敗経験を重ねるうちに、自分なりのチェックポイントを三つ持つようになりました。これにひっかかった人の採用は難しい、という判断のポイントです。それは、
(1)質問した内容と答えが微妙にズレている人
(2)「知らない」と言えない人
(3)携帯電話で自分の今いる場所を上手に伝えられない人
です。
それ以外の判断は現場の長に任せるようにしているので、僕はここだけを見極めるようにしているわけですが、この三つのポイントに至った僕の経験談などを紹介します。
以下、この三つのチェックポイントについての詳しい説明が書かれています。
学歴や技術や知識や礼儀作法ではなく、この三つというのはとても興味深いのですが、この本を読んでいくと、その理由がよくわかります。
逆に言えば、「この三つができる人は、社会に出て行くための最低限の能力を備えている」ということでもあるのです。
こんなのできない人のほうが少ないんじゃない?って、僕も思ったんですよ。
(1)(2)は自分では評価しがたいところはありますよね。
ときどき、(3)を思い出して自分でやってみるのですけど、居場所を言葉だけで土地勘のない人に伝えるのって、けっこう難しいのです。
いまはスマートフォンが普及しているので道案内もやりやすくなりましたが(極論すれば、相手に「検索」してもらえばいいので)、いわゆるガラケー時代には、後から来る人に店の場所を説明しようとしてもなかなかうまくいかず、途中まで迎えに行った、という経験をした人も多いのではないでしょうか。
人を見抜く、というのは、本当に難しい。
いまは、優秀な人は、どんどん転職したり、起業していく時代ですし。
それでも、こういう「採用する側は、何を考えているのか」を知っておくと、けっこう役に立つことがあるのではないかと思います。
こういう話がみんなに共有されると、やっぱり「フィーリング勝負」になってしまう、その繰り返しなのかもしれませんけどね。
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著者:fujipon
読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。
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