会社組織の運営は難しい。そしてその難しさの本質は「多様性を維持しつつ、まとまりを保たなくてはいけない」という部分にある。
全員が画一的な思考になってしまった企業に未来はない。生態系において遺伝的多様性が重要であると言われる理由はある一つの災厄で種族が全滅することを防ぐためだ。世界的に有名な日本の映画監督である押井守氏は、その作品である「攻殻機動隊」の中で、「組織も人も、特殊化の果てにあるのは緩やかな死」と述べている。
だが、構成員全ての規範があまりにも異なる組織もまた、生き残ることはできない。外部との競争ではなく、内部闘争にリソースを大量に投入しなければならないからだ。意思決定は遅れ、行動はまとまらない。そういう組織は生き残ることはできない。
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私がコンサルタントだった頃、ある商社に訪問した。社長は営業出身、威勢がよく、いかにも人好きのしそうな人物であった。ただし、内部の営業マンたちはそう感じてはいなかったようだ。
内部の営業マンたちはこう言った。
「成果を出さない奴は、社員じゃないんですよ。成果を出してはじめて、堂々とものが言える。社長はいつも、そう言ってます。」
なるほど。そうかもしれない。
「成果を出せていない人は、どうなるんですか?」
「黙って、成果を出している人の言うことを聞け、って言われています。」
社内を見渡すと、成績No1の社員が表彰されている。壁には営業成績が個人別に貼りだしてあり、競争心を煽るように「No1社員のコメント」を見ることができるようになっている。
だがこの会社の業績は伸びていた。3年連続最高益の更新、社員もついに100人の大台を突破し、破竹の勢いであった。
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8年後、私は同じ会社に訪問した。ずいぶんとご無沙汰していたのだが、彼らは快く私を迎えてくれた。
しかし、業績はここ4年ほど芳しくない状態であった。社員も130人前後を行ったり来たり。減りもしなければ増えもしない状態だ。社員の方いわく、「リーマン・ショック」からケチがつき始め、相次ぐ得意先からの値下げ要求と、在庫過剰で利益が出にくくなっている、という話であった。
「あの、No1社員の方はどうしましたか?」と聞いてみた。
「業績が下がったら、すぐに辞めてしまいましたよ。あの頃の社員はもう30人程度しか残っていないです。」
「なるほど、皆様苦労されて会社を立て直したんですね。」
「そうなんです。リーマン・ショック後は大変でした。すぐに影響はなかったんですが、半年後くらいからじわじわと業績に影響が出て、一時はどうなることかと思いました。」
「どうやって危機を乗り切ったんですか?」
「8年前にはほとんど売れていなかった新商品がじわじわ売れ行きを伸ばして、今では商品構成がすっかり入れ替わりました。あの頃と違って、大量に物が出るわけではないんですが、単価が高いのでフォローが大変です。」
「フォロー?」
「はい。今はどちらかと言えば商品を納品したあと、コンサルティングのようなことをしてお金を頂いているんです。」
「壁に貼ってあった成績表が無くなりましたね」
「そうです。評価基準も大きく変わったので、あの頃の営業スタイルを好む人達が殆ど辞めてしまいました」
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「成果を出している社員」と言うのは、本質的には「今の会社の事業、商品」がその人の能力とマッチしているというだけの話だ。注意しなければならないのは、それは「絶対的なものではない」という点にある。今どんなに成果を出している人も、商品が変われば能力を発揮できなくなるかもしれない。今どんなにダメな人でも、事業が変われば能力を発揮するかもしれない。営業としてはからきしダメでも、プログラマ、デザイナーとしては有能かもしれない。
もちろん、成果を出していない人を、成果を出している人と同等に扱うのは間違っている。それは「成果」を重視しない風土をつくりだす。
しかし、「成果」を出している人は「今私は運がよいだけだ」と考えなくてはならない。実際そうなのだから。
だから、もしあなたが今「成果を出している」社員なら、謙虚に今すぐ「成果を出していない人」が何をすれば能力を発揮できるようになるか、一緒に考えなくてはいけない。そして、それは多くの場合自分が思うやり方と違うものだろう。しかし、あなたはそれを受け入れる必要がある。
「多様性」と「まとまり」が両立するためには実際、「成果を出している社員」が意識を変えなくてはいけないのである。
(画像出典:Wikipedia)
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)