一つの会社に所属している会社員の時には気づきにくかったが、世の中には有能な人々が数多くいる。

 

一流の技術者。

一流のマーケターであり、ライターの彼女。

別の彼は、データ分析を専門とする。

人工知能の専門家。

保険とファイナンスのプロ。

彼らはフリーランス、経営者、会社員としてそれぞれ活躍している。

 

一見バラバラの経歴と所属ながら、彼らは「知識労働者」という共通点がある。自らの知識と手腕によって成果を出すことで、組織やプロジェクトに貢献している。

そして、彼らの考え方は驚くほど共通項がある。彼らが「働きたい」という会社は様々なのだが、「絶対にこの会社では働きたくない」ということはほぼ共通しているのだ。

有能な知識労働者に嫌われてしまう企業は、一流の人達を惹きつけることができない企業であり、衰退する会社だ。

 

奇しくもピーター・ドラッカーは1972年に既にこの状況を予言していた。※1

彼ら(知識労働者)にとって大切なことは、自分の会社、病院、美術館ではない。

大切なことは、プロの仕事がどうかである。彼らとしても、自らの専門能力を雇用主たる組織の目的、ニーズ、条件に合わせなければならないということは知っている。多かれ少なかれ、そのことは受け入れている。

しかしそれらのことは、彼らにとってますます二義的となっている。

知識労働者の価値体系からずれば、組織の価値観は二の次である。専門分野において優れた成績を上げるには、組織の価値観などは障害にすぎないかもしれない。(中略)

日本では、特に企業に働く古い世代の人たちには想像さえできない問題にちがいない。

彼ら知識労働者が嫌う企業は、以下のような企業である。

 

1.価値観を押し付ける

あいも変わらず、「価値観を押し付ける」会社は数多い。知識労働者はそのような会社を忌み嫌う。

「プライベート返上すべき」

「頑張れば、なんだってできる」

「朝9時に来なくてはいけない」

「会社に居ることが重要だ。リモートワークなんてとんでもない」

いずれも会社が立ち入る問題ではない。

組織の価値観は、統一されていたほうが良い、と考えるのは昔の話である。現在は知識労働者の知識に頼らざるをえない時代であり、自社だけでその知識を賄うことは不可能である。そして、知識労働者の価値観は様々だ。

大切なのは会社に集まることではなく、知識労働者の技能をうまく利用し、仕事で成果をあげることである。価値観を共有してもらうことではない。

 

2.間違いを許さない

知識労働者は、その仕事の性質上、必ず間違いを犯す。知識というものは暫定的なものであり、時が経てばほとんどの知識が陳腐化するからだ。

人間は間違う。その一点を理解しているかどうかで、知識労働者との付き合い方は大きく変わる。

「専門家だから間違えるな」

「ミスは許されない」

というような要求をする会社は、知識の本質を全く理解していない。知識労働者は全力をつくす義務はあるが、成果を保証することは不可能である。例えば、あなたは「がんを絶対に治す医者」を信用するだろうか?

これは、「絶対にアクセスを集める方法」を聞くのと同じであり、知識労働者の使い方として間違っている。

 

3.カネで人をコントロールできると思っている

たまに、知識労働者に対して大きな勘違いをしている会社がある。

「カネさえ払えば、やってくれる」

「ウチの会社と付き合える(居られる)だけで、ありがたいと思わなきゃ。」

そんなわけはない。

知識労働者にとって「カネ」は最低条件である。自分の専門技能を低く見る人々とは「付き合う必要が無い」と思っているのは間違いないが、だからといって「カネを出せば」という論理にもくみしない。

彼らが力を貸そうと思うかどうかは、「カネ」と「仕事の面白さ」が両方満たされているかどうかである。それら2つが満たされない場合、彼らはクライアントを変えるか、転職をする。

 

4.せっかちである

世の中にはせっかちな会社がたくさんある。せっかちな会社は、知識労働者に好まれない。本当に重要な事を成し遂げようと思えば、時間がかかるのは当然だからだ。

当たり前だが、「早くできたこと」は、できることがわかれば誰でも早くできるのだ。サービスの陳腐化は早く、どうでもよいものばかりが大量にできる。

「儲かるならば、なんでもやろう」

「早くやれ」

「まだ成果が出ないのか?とりあえず早く収益化してくれ」

そういった態度は、知識労働者にとって見れば、「せっかちで、節操がなく、根っこの部分が卑しい」とみなされる。

 

5.統制を好む

任せず、仕事のやり方に上から口を出す会社は、知識を扱う人々に嫌われる。彼らは皆、「素人が口を出すな」と思っている。

「あなた方が言っていることは、もう10年前の話だ」

「その方法は既に試している」

「そこを簡単に言ってくれるな」

「どこかで聞きかじってきたような話を持ちださないでくれ」

と、知識労働者は腹の中で思っている。彼らに十二分にパフォーマンスを発揮してもらうためには、まかせ、信用するしかない。

 

 

ただし、上のようなことから保護されている中で成果が出せないのであれば、知識労働者としては失格である。プロはプロセスではなく、成果でのみ信用される。「プロセスを見てくれ」というのは知識労働者ではない。それは自らの働きに自信がない者のいい訳である。

職場が気に喰わないのであれば、転職すればよい。プロジェクトが気に喰わないのであれば、別のプロジェクトに加わればよいのだ。プロは、言い訳しない者達である。

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)

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※1 新しい現実(ダイヤモンド社)