最近「勉強しない社員」問題について、話題になることが多かったので、少し書いてみる。
例えば最近あった事例が、あるIT業の会社での出来事だ。
新人が何名かいるけれど、そのうちの一人が極端に仕事ができない、という相談を受けた。
「なにか手を打ったのですか」と聞くと、
「他の新人と比べて、基礎となる知識がかなり欠けていたので、彼に対して課題図書を与えて読め、と言った」
「結果は?」
「何も変わらず、全く勉強しないので困っている」
言われたその場では、その新人は「読みます」というのだが、実は全く読んでいなかった、というオチだ。
上司は1年以上に渡って、
「会社で言われたことをやっているだけだと、マズいぞ」と言い続け、辛抱強く仕事を教え、課題を与えつづけた。
が、もちろん上司の努力だけでは限界がある。彼の伸びは遅く、圧倒的な差が同期とついてしまった。
上司は彼に「なぜ自分で勉強しないんだ」と聞いた。すると彼は「時間がない」と返事をする。
上司は「家でいくらでも時間があるだろう」と言うと、「すみません」と彼は言うばかり。だが、行動には結びつかなかった。
これは「本を読む」というだけのことに限らない。
結局、開発言語についても、サーバのセッティングにしても、仕事をやる上でどうしても「自分である程度勉強する」という継続学習活動は必要になる。
上の会社では、彼があまりにも使いものにならないので、今は結局、技術のことはやらせず、雑用ばかりやらせている。
そうすると、ますます他の人との差がつく。
「一旦採用した以上は、彼の将来については責任を感じる」と経営者は言う。
また、実際にリーダーも「なんとか彼を一人前にしたい」と努力しているが、むしろ本人が「もうついていけません。辞めたいです」と、ギブアップ気味のようだ。
「言われたことをやらない、勉強しない」では、我々もどうしようもない、とリーダーたちは言う。
技術の変化が遅い時代であれば、「会社が5年、10年かけて育成する」という余裕があったが、今はそうも言っていられないのが、現場の実情だろう。
そして、その変化について来れない社員が、一定数、どこの会社にも存在している。
■
以前、別の会社でも同じような事態があった。
「なんで自分自身で勉強できないのか、理由を聞いてもらえませんか」という依頼を受けたので、「勉強しない社員」と目されている方と面談をした。
本人には「会社内部ではいいづらいかもしれないから、外部の人に話を聞いてもらえ」と伝えているとのこと。
私は会社の外で、彼に会った。
「仕事に必要な勉強ができない、と聞きました。」
「やろうとはしているんですが……、家では、疲れて何もできないんです……。」
「疲れているんですか。」
「勉強しないといけないことはわかっています。わかってますが、できないんです。」
「そうですか。」
「多分、私にこの仕事は合っていないんです。もともとやりたいことでもなかったですし……。」
「やりたいことではなかった。」
「ええ。」
「入社して、後悔している?」
「……。」
「転職を考えているのですか?」
「すこし。」
「どんな仕事なら、できそうですか?」
「……わかりません。」
■
私は考え込んでしまった。
そもそも、本人の能力を超える要求をする、企業が悪いのだろうか?
それとも、本人が努力できない(しない)のが悪いのだろうか?
仮にどちらかが悪いとして、彼がこの会社を辞め、環境が変われば、彼は活き活きと働けるようになるのだろうか?
若干の疑問が残る。
もしかしたら、彼は他の会社に行ったとしても、同じような状況を引き起こすかもしれない。
というのも、「学習意欲」にかかる問題は、会社のみならず、家庭や学校、社会全体においても非常に大きな問題となっており、未だに解決を見ていないからだ。
教育学者の苅谷剛彦氏は、著書「学力と階層」において、「学習意欲」の家庭環境や出自階層との密接な関連を指摘し、これに係る問題を「難問(アポリア)」と呼ぶ。
すでに別のところで明らかにしたように、個人の学習能力には明確な差異がある。
しかもその差異は、子どもが生まれ育つ家庭の環境や階層と密接に結びついている(本書の1章を参照)。「自ら学ぶ」力の測定は難しいが、学ぼうとする意欲や、自分から調べようとする学習態度などの面では、明らかに階層差が存在する。
(中略)
同じような学習資源に囲まれていても、初期の学習能力の差が、学習の成果においても、学習能力のさらなる向上においても、差を作り続け、拡大していく可能性がある。
この格差は、学校教育のあとで、さらにどのような学習機会が準備されるかと関係しながら、拡大を遂げるだろう。
学習資源も豊富なハイスキルの仕事の機会を得るための選抜が、学校時代の学習能力の差に基づいて行われるようになれば、仕事の機会という学習機会の差が、その後の人的資本形成に決定的な影響を及ぼすようになる。
フリーターの増加が問題になるのは、まさにこうした文脈においてである。それというのも、彼ら彼女たちはより高度な知識や技能を獲得する機会を奪われているだけではなく、学習機会から遠ざけられることで、そもそも持っていた学習能力(学ぶ力)を枯渇させてしまう境遇に置かれているからだ。
このように初期の段階での学習能力の差が、家庭環境などの影響を強く受けていることを考慮に入れると、選択主体・自己責任主体の形成の問題と重ね合わせて、人的資本主義の新段階が新たな格差を生み出す構図が浮かび上がってくる。
学習能力を磨き続ける者と枯渇させる者の格差であり、磨き続ける者には与えられ続ける、より豊富な学習機会が広げる格差である。前述の市場化がもたらす「選択」原理の広まりは、こうした格差も、個人の問題に還元する見方を受け入れる基盤を作り出していくだろう。
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「学習意欲」のない新人には、前述した会社において「雑用」をやらせざるを得ないという状況におかれていた。
するとますます彼の「高度なスキルを身につけるチャンス」は失われ、彼の将来は暗いものになる可能性が高い。
だが、一方で残念ながら「教育の専門家」にすら難しい「学習意欲」に係る問題を、現場のマネジャーや経営者が効果的に解決できる可能性も低い。
そう考えていたところ、SNSのタイムラインでこの記事を見た。
「地方に残っている人」と「わざわざ住みに来る人」の中で高等遊民的な人の割合が少なそうであることもわかっていて、どんなタイプの人もなるべく受け入れるようにしていたのですが、世界でもかなり安い方だと思われる毎月1万そこそこの家賃が支払えず何ヶ月も滞納する人が何人もいたのは想定外でした。
それでも勉強会を開いて自分なりに育成もしたのですが、このライフスタイルも適正がありますし、そもそも向上心あふれる人や勉強熱心な人だったら1万円の家賃も払えないような貧困層になってないですよね。
向上心溢れる人、勉強熱心な人は1万円の家賃も払えないような貧困層にはならない。そういう認識を、我々はごく自然に「そうだよな」と思ってしまう。
だが、「意欲」こそが本質であり、「意欲」こそが高い能力の源泉であるとすれば、我々は「意欲の格差」を無視することはできない。
「意欲」に関する問題は、会社や学校で摩擦を生みやすい。
意欲を持つ人は、意欲を持たない人の気持ちがわからないし、逆も真だからだ。
ということは、「意欲」の問題を、個人や個々の会社の問題にせず、社会全体で取り組む問題とすること。
そして、特効薬の存在していない問題だという認識を皆が持つことは、結構重要な事なのだ、と今更ながらに思うのである。
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(2025/3/27更新)
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