以前「依頼された仕事をやらない人」は、要するに「面倒くさがり」だと書いた。

「依頼された仕事をやらない人」は、なぜあれほど言われても、仕事をしないのか

ではなぜ、彼らは「やれる能力」があり「引き受けた」のに、仕事をしないのか。いろいろと考えた挙句、私がたどり着いた結論は、「たぶん、面倒になった」だった。

「面倒くさがり」は、かけるべき手間をかけないという意味で、「怠け者」と呼ばれてしまうことも。

 

例えばこんな具合の、リーダーとメンバーのこんなやり取りを、見たことがある。

 

リーダー 「お客さんに説明するときには、「顧客満足」という言葉を正確に使わないとダメです。「顧客満足」の正確な定義を覚えてますか?」

メンバー 「……えーと……正確な定義、ですか……?」

 

リーダー 「そう。」

メンバー 「……申し訳ないです……覚えてないです……。」

 

リーダー 「用語集に載っているから、すぐ調べておくように。」

メンバー 「はい。」

 

-翌日-

 

リーダー 「調べましたか?顧客満足の定義、言ってみてください。」

メンバー 「……す、すいません、調べてません。」

 

リーダー 「すぐに調べてくれと言いましたよね。数分もあればできるはずです。なぜやらないんですか。」

メンバー 「……えー、忘れてました。」

 

リーダー 「メモは取らない、わからない言葉をすぐに調べない、それじゃコンサルタント失格ですよ。あと、昨日お客さんから「回答が遅い」って、クレームが来てましたよね。放置されていたので、私が対応しておきました。」

メンバー 「……ありがとうございます。」

 

リーダー 「あなたはたびたび、「回答が遅い」って、クレームをもらっているのに、なぜすぐに返信しないのですか。あと、机の上のゴミを片付けてください。これも周りの方から「不潔だ」と、苦情が来ています。」

メンバー 「す、すいません!すぐにやります!(パニック)」

 

彼はアタマが悪いわけではなかったが、とにかく物事を先送りするクセがあった。

調べ物をしたり、デスクを整理したり、確認をしたり、メールを返信したりすることについて、絶望的に動きが遅かった。

 

たまりかねたリーダーは「かんたんなのに、なぜ言われたことをすぐにやらないのですか。」と聞いていた。

彼の返事は「すいません」だけだった。

 

そして彼は、「怠け者」という評価をされた。

反省も進歩もないとみなされた彼は、1年を待たずに辞めていった。

 

 

多くの仕事は「面倒くさいこと」から出来上がっている。

当然だ。

自分でやれない、あるいは自分でやるのが面倒くさいから、お客さんや経営者はお金を払ってくれるのだ。

 

だから皆にとって、仕事は等しく「面倒」である。

なにせ、宮崎駿ですら、映画を作ることを「面倒だ」と言っているくらいだ。

ただし、「面倒」だと思っても、なんとかやりきるまで頑張ろう、と思う人達がいる。

その一方で、「面倒くさいから、やらなくていいや」という人達がいる。

 

そして、正直に言うと、後者のような「面倒くさいから、やらなくていいや」は、根本的にやる気が不足しており、もう、どうしようもないのだと、かつて私も思っていた。

 

「面倒くさがり屋」につけるクスリはあるのか。

ところが一昔前に、行動経済学の原典である、ダニエル・カーネマン著「ファスト&スロー」を読み直していたところ、これに関連する記述を見つけ、考え方を改めざるを得なくなった。

 

注意力を要する作業をしている人間は、目の「瞳孔」が開く。

この現象を利用して、カーネマンが調査をしたところ、「知的努力」を怠りがちなのは、すべての人間に見られる傾向だという。

これは「最小努力の法則」と呼ばれる。

つまり「人類はすべて、怠け者」という事だ。

 

だが、普通はそれを乗り切るために、

・簡単な作業に小分けする

・中間結果を出して長期記憶に覚えさせる

・すぐにいっぱいになってしまう作業記憶を使わずに紙に書き出す

といった方法を使って、過大な負荷を防ぎつつ、時間と行動を管理して長丁場をしのぐ。

 

心理学では、これらを「実行制御」という。

つまり「面倒くさがり」とは、心理学的には「やる気が不足している」のではなく、単に「実行制御の能力が低いのであきらめてしまった」だけ。

つまり能力不足だ。

 

実行制御の能力が低い人は「タスクの洗い出し」や「スケジュール化」ができない。

無理にやらせようとしても、一種のパニックに陥って、かえって仕事が進まなくなってしまう。

 

これについては、しんざきさんの記事に同様の事実が記述されていた。

「マネージャー不要」という人いますけど、大抵の人はマネージャーが管理してくれないと仕事ができないんです。

いざ「じゃあマネージャーなしでやってみてね」と言われると、これ大抵の人が全然出来ないんですよ。

マジで7〜8割方の人は出来ない。

必要タスクの洗い出しは出来ても、その細分化が出来ない。

細分化したタスクに対して妥当な工数を見積もることが出来ないし、それに基づいてスケジュールを作成することが出来ない。

で、これらと格闘している内に実際の開発作業の効率がどんどん下がって進捗ダダ遅れ、遅れを取り戻そうにもリソース調整に手がつけられない、なんてことが起きまくる。

で、我々は気づくわけです。

「ああ、そもそも、マネージャー不要とか言い出せる人って相当優秀な人なんだな…」と。

 

「タスク設定できる」は、非常に高度な知的能力

実行制御の能力、つまりタスク設定をしたり、メモを利用する能力は、誰でもできるのではなく、それ自体が、高度な知的能力の一つだと考えると、いろいろと合点がいく。

 

要は、「面倒くさがり」に仕事を出すときには、管理者が実行制御を担わなくてはならない。

 

例えば、彼らに対しては、リーダーは「用語集に載っているから、すぐ調べておくように。」という指示を出すのではなく、「いま、ここで調べなさい」と言うべきだ。

「机の上を整理せよ」ではなく、すぐに一緒にメンバーの机に行き「これを捨てなさい」「これをもとに戻しなさい」と指示を出さなくてはならない。

「メールの返信は素早くせよ」と指示だけして放置するのではなく、「このメールに今返信してください」と言わなくてははならない。

 

「あまりにもリーダーの負荷が高すぎる」と思う方もいるだろう。

そのとおりで、いつまでも「面倒くさがり」の世話を焼いていては、リーダーは仕事にならない。

 

ただ、希望があるのは「実行制御」は、訓練可能だという点だ。

カーネマンは「何度もやれば必ず上達する」と述べており、かつ「実行制御」の能力は、「食える」スキルだ。

今の時代、「ふわっとした仕事を具体的なタスクに落とし込むスキル」だけで十分食えると思う

「タスクの具体化、詳細化」に必要となる根本的な能力は、恐らく下記2点に集約される筈です。

・ふわっとしたタスクから、具体的にどういう工程が発生するか?ということを想定する想像力、想定力

・「どの工程を終えたらどんな状態になるか」ということを導出する論理力

管理職飲み会では、仮に転職するとしたら、こういう能力は凄く売りになるよね、という話になりました。

 

つまり「面倒くさがり」を「やる気がない」で片づけず、本人に「実行制御」の能力の重要性を説き、技術を習熟するまで反復して訓練を施せば、徐々に実行制御に要する知的努力は減り、最終的には「面倒だ」と思わなくなるかもしれない。

 

もちろん、万人が身に着けられる能力ではないかもしれない。

が、少なくとも部下に「実行制御」の能力を持つ人を増やさなければ、管理職なんて、とてもではないが、やってられないのである。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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