政治家が大衆におもねる政策ばかりを選択すると、世の中はどうなるのだろうか。
「民主主義だから、大衆の考えを反映した政治家が良い」という方もいれば、「人気取りの政治は、バラマキなどを乱発し、大衆を堕落させる」と見る人もいる。
どちらが正しいのか私にはよくわからないが、少なくとも「大衆とはなにか」を知らずして政策を立案することはできないだろう。
これは、大会社を経営するマネジメントたちにも必要な知識だ。「社員におもねる社長」と、「社員を突き放す社長」がおり、それぞれ「多くの社員は、何を考えているか」を気にせざるを得ない。
さて、この「大衆」についての詳しい分析を行った著作が、オルテガ・イ・ガセットの「大衆の反逆」である。
彼は、1人の人間がどういう考え方を持っているかで、「大衆」に属するかそうでないかわかると述べる。
”厳密に言えば、大衆とは、心理的事実として定義しうるものであり、個々人が集団となって現れるのを待つ必要は無いのである。”
彼は大衆をこう定義する。
”大衆とは、良い意味でも悪い意味でも、自分自身に特殊な価値を認めようとはせず、自分は「すべての人」と同じであると感じ、そのことに苦痛を覚えるどころか、他の人々と同一であると感ずることに喜びを見出しているすべての人のことである”
”人間を最も根本的に分類すれば、次の2つのタイプに分けることができる。第一は、自分に多くを求め、進んで困難と義務を負わんとする人々であり、第二は、自分に対してなんらの特別な要求をもたない人々、生きるという事が自分の既存の姿の瞬間的連続以外の何物でもなく、したがって自己完成への努力をしない人々、つまり風の間に間に漂う浮標のような人々である”
”したがって、社会を大衆と優れた少数者に分けるのは、社会階級による分類ではなく、人間の種類による分類なのであり、上層階級と下層階級という階級的序列とは一致し得ないのである”
彼の分析は非常に鋭い。イギリスの功利主義哲学者であるジョン・スチュワート・ミルは、
「満足な豚であるより、不満足な人間である方が良い。 同じく、満足な愚者であるより、不満足なソクラテスである方が良い。」
と言っているが、愚者とソクラテスの根本的なちがいは、「自分に多くを求めるかどうか」だ。
したがって、会社経営において、あるいは政治家としての手腕は、「自分が困難を進んで引き受ける」人をどうやって増やすか、にある。
バラク・オバマは第二期の就任演説でこう語った。
”国民のみなさん、我々は今この時のためにここにいるのです。いっしょに取り組もうとするかぎり、それを獲得することはできるはずです。
なぜなら少数の人だけがうまいことやり、かろうじて暮らすような人が増えるようであれば、この国は成り立たないと、我々は分かっているからです。アメリカの繁栄は台頭する中間層の肩にかかっています。
すべての人が自立し、自分の仕事に誇りを持てたとき、誠実に働く人が自らの賃金で家族の苦境を救うことができたとき、アメリカは繁栄できるのです。
職のない貧しい中に生まれた少女でも、他の誰とも同じように成功するチャンスがあると知ったとき、そしてそれは神が見ているからということだけではなく、我々自身が、彼女が自由で平等なアメリカ人であると認識していることによってそうなったとき、我々の信条が真実であるといえるのです。”
出典:http://www.ibcpub.co.jp/obama/speech2.html
国民や社員を大衆化させてはいけない、「責任を負う」ということが、最も人間を成長させるのだから。
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