こんにちは。コワーキングスペース「Basispoint」の運営会社、Ascent Business Consulting代表の北村です。

私はかつて、厳しい成果主義を徹底している米系のコンサルティング会社で勤務していました。

当時は「年功主義」の会社に入った人々との評価のされ方の違いに、驚いたこともあります。

 

しかし時は流れ、近年は日本企業でも「成果主義」を標榜する企業が一般的になりました。

逆に「年功主義」はすでに絶滅危惧種です。

終身雇用が崩壊した今、年功主義は不合理ですから、これは当然の流れでしょう。

今では広辞苑にも、成果主義とは「従業員の報酬や昇進を、年功でなく仕事の成果を基準に決める考え方」とあります。

 

ところがこの成果主義ですが、一般的にはあまり評判がよくありません。

「成果で評価される!」と聞いて喜んでいた、能力に自信のある社員たちも、時が経つと「成果主義っていまいち」と思う方が結構いるようです。

普通に考えれば「成果」と「評価」が紐づくことに問題は無いように見えますが、なぜこのようなことが起きるのでしょう。

 

成果主義が不評の理由

その大きな理由は2つ、あります。

1.ジョブディスクリプション(職務記述書)がない

アメリカの企業には「スペシャリスト採用」が一般的であり、そこには「ジョブディスクリプション」という、業務の内容を詳しく記述した文書が存在します。

ジョブディスクリプションには、職務内容や責任などが詳細に記述されており「成果の定義」もこれをベースに行われます。

逆に日本企業は「ゼネラリスト採用」が一般的であり、「いろいろな仕事をやってもらいますよ」という前提で採用を行います。(だから幹部社員は「総合職」という呼称なのです)

したがって期中にも「役割」と「成果」は変化し、「この業務における成果は誰のもの」が曖昧です。これでは「成果による評価」は有名無実となりがちです。

(参考:神戸大学経済経営研究所 日本企業の成果主義の行く末は?)

 

2.「横並びの給与水準」の存在

もう一つの理由は「横並びの給与水準」です。

一般的に企業において「ずば抜けて多くの報酬を貰う人」は少数であり、とくに日本企業においては同年代の給与で大きな差がつくことはあまりありません。

しかし、これは「成果主義」を標榜する会社にとっては解決すべき問題になります。

なぜなら成果は「一部のハイパフォーマーに大きく偏る」と考える人も多いからです。

 

実際、Googleの人事トップは「スポーツ選手」や「学者」を例に挙げ、次のような発言をしています。

グーグルでは、同じ業務を担当する2人の社員が会社にもたらす影響に100倍の差があれば、報酬も100倍になる場合が実際にある。

たとえば、ある社員が1万ドル、同じ部門の別の社員が100万ドルのストックオプションを、それぞれ支給されたこともある。

これは極端な例だが、ほぼすべての職位で、報酬の差が35倍になることは珍しくない。「異常値」が生まれる余地も大きい。職位の低い社員が、職位の高い社員の平均的なパフォーマンスをはるかに上回ることも多い。

そのような人は当然ながら、より大きな影響を会社にもたらすので、その影響を評価するような報酬制度になっている。

Goolgeは「成果」に基づいた評価を行い、そして貢献度に応じて給与が支払われます。

それがまっとうな「成果主義」でしょう。

 

しかし日本において、同じ入社5年目のシステムエンジニアの給与が、年400万円〜年1600万円と大きくばらつくことを許容する会社は多くありません。

結果的に、できる人ほど「成果を出したのに、思ったより報われない」という不満を口にすることになります。

 

これらに対して

「日本企業も、ジョブディスクリプションを用いて個人の責任範囲を明確にすべき」とか、

「給与格差を容認すべき」などと言った声もあります。

 

ですが、「日本固有の風土」を無視した制度づくりをしても、結果は芳しくないでしょう。

おそらく、「皆が他人に無関心で、自分の利益だけを追求する組織」が出来上がってしまうはずです。

 

吉本興業に見る、日本型の成果主義

したがって、私は米系の企業で運用されるような成果主義を、そのまま日本企業に当てはめるのは無理があると思います。

 

では、代案となるものはあるのでしょうか。

私は「吉本興業」に、そのモデルがあると考えています。「いったいナゼ吉本?」と思う方も多いかもしれませんが、まあ聞いてください。

 

吉本興業は御存知の通り、「お笑い」のスペシャリストたちが集う企業です。芸人で有名になりたいのであれば、吉本興業への所属をまず思い浮かべる方は多いでしょう。

しかし、その道は甘くはありません。吉本興業は厳しい成果主義で知られています。

よく芸人が「給料が安い」とぼやいているのを耳にしますが、そもそも実力がなければ劇場までの交通費すら出ません。

彼らは『5じからバトル!』というゴングショーに出場する。ギャラ0円から始まって一回合格するごとに百円が加算されていく。五回合格、つまりは〝五百円芸人〟にならなければ劇場のレギュラーメンバーへの足掛かりを摑めない。(中略)

しかも、プロを名乗る以上はギャラが0円では話にならない。晴れて五百円芸人になっても、きっちりと源泉徴収されるから手取りは四百五十円、コンビで山分けしたら交通費すら出ない。

随分と冷たいようにも見えますが、「成果主義」の世界ではこれが当たり前です。

 

しかし、実は一方で、吉本興業は人を育てるのに非常に熱心です。

例えば、それまで徒弟制度が中心だった芸人の育成を、養成学校を作ることで間口を広げています。

さらに、大阪では新人発掘、若手育成のために「よしもと漫才劇場」を経営しています。ここでは若手中心のプログラムが組まれていますが、ベテランや旬の芸人もプログラムを持っており、「客寄せ」にも余念がありません。

 

本来、旬の芸人は、若手と一緒に劇場にいるよりも、テレビに出演させるほうがずっと儲かります。

しかし、テレビに出演する機会を断っても、吉本興業は劇場に芸人が足を運び、お互いが学び合う場を維持することを奨励しているのです。

 

つまり、彼らはこう考えています。

「成果」に対して、金銭的な報酬には圧倒的に差をつけてもかまわない。

しかしその「成果」は、個人の力だけで勝ち取ったのではなく、「組織」と「個人」の協力の結果なのだから、ハイパフォーマーは「後進の育成」「組織への貢献」などの義務を必ず果たさなければならない。

 

私が考える、真の「成果主義」とは、ハイパフォーマーが自分の仕事をまっとうするだけではなく、組織全体に貢献するように仕向ける仕組みを備えているものです。

 

「自分勝手なハイパフォーマー」は不要。

芸能業界では、売れっ子になると「事務所から独立」というニュースが良く流れます。また、吉本興業の若手も、少し売れてくると「独立」する人もいます。

 

しかし、芸能事務所や吉本興業は、そういった「裏切り者」には徹底して制裁を加えます。

マスコミ側もそれを知っており、「裏切り者」に仕事を回すことはありません。

それは「全体への貢献」を怠った、多くの人の努力を踏みにじる行為だからです。

「自分勝手なハイパフォーマーは不要」といい切れる成果主義の組織。それが真の成果主義の姿なのではないかと、思います。

 

 

 

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(Photo:[pnu])