この時期は、様々な会社の新卒採用を手伝う事がある。
私は書く仕事が得意なので、実はブログを書いたり、応募受付文を書いたり、DMを書いたり、説明会の資料を作ったりと、結構さまざまな場所で、新卒採用に関わっている。
そんな中、立て続けに複数の会社の採用担当者が、
「研修制度はありますか?」と聞く学生について「微妙」とか「筋が悪い」と言うのを聞いた。
話を聞くと、説明会や面談の場で、よく研修についての質問を受けるという。
「入社後にどんな研修がありますか?」
「資格取得をサポートしてくれますか?」
「スキルアップのための補助はありますか?」
そんなことを聞かれるという。
「スキルアップに熱心なのは悪いことではないですよね」と私が言うと、
「まあね。でも、筋は悪いよね」と、一人の担当者は言う。
「もちろん研修は用意しているし、スキルアップに熱心なのはわかるけど、本来スキルアップなんてものは、自分でやることだから。」
なるほど。そうかもしれない。
私が頷くと、彼は続ける。
「もし学生さんが、スキルを効果的に身につけるやり方はありますか?と聞くなら、それは筋が良いと思う。ウチの研修もその一つとして推薦する。でも「与えてもらう」ことを前提にしているのはちょっとね……。」
◆
確かに、最近の企業の考え方として、
「必要なことは、業務の中で憶えなさい。そして、わからないことはまずは自分で調べなさい。」という傾向は特に強くなってきている気がする。
「会社が育てる」という文化が薄れ、欧米の企業のように「自己責任」が強調されつつあるのかもしれない。
実際、アメリカ企業においては、学びの殆どは研修などの座学ではなく、業務からだという調査もある。
人材育成の専門家が四十数年の内訳を調べたところ、全体の70%が仕事の経験を通して、20%がコーチングやメンターを通して、10%が座学を通して、学んでいることがわかった。
アパレル大手のギャップ、コンサルティングのPwC、デルなどさまざまな企業が、自社のサイトで人材育成プログラムの「70対20対10のルール」を公表している。
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また、人材が流動化している現在では「人材に投資」を手控える会社が増えている。
実際、米国の社会学者、リチャード・フロリダは著書「クリエイティブ資本論」の中で、「企業が従業員の能力開発投資をしても、見返りがない」と指摘した。
人々がより良い機会とよりやりがいのあることを求めて頻繁に離職する時代にあっては、企業が従業員の技能と能力を開発するのに多大な投資をしても、もはや見返りを得られないということがある。
ルーセント・テクノロジーズによる仕事に対する満足度調査では、ネットワーク専門職二六二人のうち四分の三近く(七三パーセント)が、自分たちの職業には自分たちが学び成長することが必要だと答えているものの、自分たちの会社の公式トレーニング・プログラムが自分たちのニーズにかなっていると答えたのは、かろうじて三〇パーセントに過ぎない、との結果が報告されている。
社員は社員の都合で、会社を移動する。
となれば、企業は企業の都合で、人材育成に投資をするかどうかを判断するのは自然だ。
また、現在は「独学」の環境が非常に整っており、労働者が会社の用意するプログラムを必要としない、という側面もある。
メディアの専門家を対象にしたバットとクリストファーソンの研究によると、ニューヨークの労働者は、平均して週一三・五時間を新しい技術の獲得のために(で)費やしている。
これは四〇時間の週労働時間の三分の一に当たる。この報告では、技能の習得が「個人の責任」で行われることになっているが、これは「コンピュータ・ツールの双方向性により、新たなメディア労働者が新しい技術を自分のペースで、また自分自身の学習スタイルで学ぶことが可能になっていること、そして公式の学習プログラムでは変化の速い業界の技能ニーズに対応できないことの両方が理由」である。
これは、Googleに於いても例外ではないようだ。
Googleのラズロ・ボックは「組織にとって、人材育成に関する要求は尽きることがない」と指摘し、過剰なリソースの投入をするよりも、「グーグラーの独学を手助けする方法を考えよう」と締めくくっている。
◆
結果的に、企業が持つ「育成のためのリソース」は、会社にずっと残ってくれそうな、しかも「できる」幹部候補の社員だけに、集中投下されるようになっていくだろう。
会社は見えない所で、社員たちの教育投資に大きく差をつけている
以前は「全員一律」ということにこだわっていた会社も、最近は「社員同士の差をつける」ことに臆さない。
そして、それは給与という不満の出やすい領域ではなく、不満の出にくい、しかも長期的にはかなりの差がつく領域で顕著になっている。
それは、「教育投資」の分野だ。教育に避けるリソースに余裕がなくなった会社は、少しでも効果的な教育をするため、見えない所で、社員同士に大きな差をつけている。
上は、ちょっと前に書いた記事だが、その傾向はますます最近、顕著になってきていると感じる。
だれもが「独学」で知識と技能を身につけられる環境がある時代だ。
「企業に技能を授けてもらう」ことを企業選びの優先事項にするより、様々な場所へ「自分で取りに行く」方法を考えたほうが良いのかもしれない。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
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